「クリーンルームの密閉度・気流改善による採算改善」

センサーのカバーなどの用途でガラスなどの光学コート製品を生産する現場において、私が改善の担当を任された時には製造課の採算が非常に悪い状態でした。

民生用となるため厳しい価格競争にさらされる中、製品の異物に関する外観規格は数十ミクロンと厳しく、歩留りが70%前後と非常に悪かったのです。

納品のために多くの原材料を投入し、交代勤務を組むなどして対応し、その多くは不良品として捨てざるを得ない状態でした。

また、コートを行う生産機械は、それ自体が異物を発生させる工程を含んでいるため、生産機械やクリーンルームの清掃を一生懸命行う中で、歩留りを上げる活動には大変苦戦していました。

現場では、努力が成果につながらないことや、上層部からの継続的な叱責などで、個々もチームも非常に疲弊した状態でした。

そんな中、歩留り90%を目標に改善活動を開始しました。

改善する項目は多岐にわたりましたが、ここでは作業環境に関することについてお話します。

目標をクリアする上での問題点は大きく次の3点でした。

  1. 異物による歩留り悪化を改善するのに対し、明確な対策方法が分かっていない
  2. 長年歩留りが悪い状態で生産を行っており、現場の改善意識が薄い
  3. 製造課の採算状況は既にひどく悪い状態であり、改善活動の資金が非常に少ない

問題点を解決していくため、次のように課題を挙げ対応していきました。

  1. 現状把握:見えない数十ミクロンの異物はどこで発生しているのか
  2. 現場の改善意識の変化
  3. 改善活動に関する費用の抑制

(1)現状把握:見えない数十ミクロンの異物はどこで発生しているのか

改善活動の対策などでよく見られるケースに「〇〇という現象が発生しているから、△△をする」という、イメージや勘だけでその場で対策を決定してしまうことがあります。

そして、即行動を起こすところはよいのですが、やってみると効果があったのかなかったのかよくわからない、または、一時的に効果が出たが、いつの間にか効果がなくっている、などとうまくいかない場合も多く見られます。

このやり方が続くとやりがいがなくなっていき、次の改善活動に対しても積極性がなくなっていきます。

これらの対策の失敗は、現象をうまく捉えられていない、問題の真の原因が分かっていない、ということから起こっています。

遠回りのように見えるかもしれませんが、問題が起こっている現象をきちん捉える調査を行うことが近道になります。

また、系統図・因果関係図と呼ばれる図を書いて問題を整理することもあります。コツをつかむと真の原因にたどり着くのに大変役に立ちます。

さて、今回の課題に対しては、異物の発生状況をつかむために、

  • パーティクルカウンターによる異物個数の可視化(定量的)
  • 煙法による気流の可視化(定性的)
  • 暗闇で強い照明を当てることによる異物の可視化(定性的)

を、製造の作業毎のタイミングで行いました。

  1. クリーンルームの陽圧が保てていないため、外気と一緒に異物が侵入する
    (クリーンルームは、異物が侵入しないよう気圧を高く設定しています)
  2. 生産機械での光学コート加工時に異物が発生し、開けた時に室内に拡散する
  3. 発生した異物は拡散し、すぐには沈静化しない
  4. 歩留りのばらつきは、材料を仕込む際に近くで行っている機械の清掃作業が関係する。

改めて、これらの4つの個別の問題点について対策を打っていくことにしました。

①クリーンルームの陽圧確保

生産機械は、原材料の投入口や操作部分はクリーンルーム内、それ以外は外という設置の仕様になっていましたが、内外を隔てる壁と生産機械の間にはたくさんの隙間がありました。

生産機械は複雑な形をしていましたが、壁をそのように細かく加工することができなかったため、結果としてそのような状態になっていました。

陽圧が保てていないことで、場所によっては室外からクリーンルームへ直接外気が流入していってることが分かりました。多くの費用をかけられないため、市販の養生テープでその隙間を塞ぐことにしました。

その際、生産機械の下に腹ばいでもぐったり、生産機械の上によじ登ったりして、少しずつ塞いでいく必要がありました。他の仕事を終えた夜間に作業を行い続け、10台以上の生産機械と壁との隙間を塞ぐのに1週間程かかりました。

作業の完了後、クリーンルームの陽圧が確保でき、外気の流入がないことが確認できました。

結果の分かっていること、簡単なことですが、正式に工事を行うとそれなりの金額がかかるということで、そのままになっていました。

やらないよりは仮でもよいのでやった方がよいという例になります。

②生産機械から発生する異物の抑制

製法上、コート加工時に異物が発生するのは避けられませんが、その発生量を抑えるために、加工の条件を振って評価を行ってみました。

結果として、異物の発生を抑えることはできず、条件によっては不良率が高くなる結果となったため、この問題に対する対策は中止し、他の方法で対策することに決めました。

難易度が高過ぎる問題に取り組み、時間がかかり活動を停めるよりも、優先度を下げて次の策を打った方が効果的となります。

③拡散・浮遊する異物対策

①の対策により外気による異物の侵入はなくなりましたが、クリーンルーム内で発生する異物についても対策が必要でした。

クリーンルーム内の換気はされていましたが、長年の変更工事などにより、気流の流れの早い場所や、気流のないよどんだ場所が発生していました。そこで、流れの可視化を行い調整しながら、密閉したクリーンルームの一部を開放し、室内を一方向に流れるようにしました。

空気がよどむ場所がほぼなくなり、全体的に常に換気されていることが確認できました。

④清掃作業時に拡散する異物対策

生産機械を開け中の清掃を行う際に、クリーンルームに異物が拡散するため、清掃作業を行う際には天井から床に届くようなカーテンでそのエリアを仕切るようにしました。また、仕切った中の雰囲気は長時間きれいにはならないので、クリーンルーム外へ排気する穴を設け、清掃時のみ開放するようにしました。

①の対策で陽圧が強くなっていましたので、清掃エリア内の汚れた雰囲気は室外に押し出され、清掃エリア外からクリーンエアを供給されるという流れを作ることができました。

また、生産機械に原材料を仕込む際にはカーテンの仕切りを開け、クリーンエアで換気されるようにしました。

さらに、クリーンルーム天井には、空調機から送られてきたエアをフィルタを通して室内に供給する吹き出し口が設けられていましたが、その吹き出し口から生産機械までをダクトでつなぎ、一番きれいな状態のエアを生産機械の中に吹き込むような仕様にしました。

通常の空調にもう一つ仕事をさせる形となりました。

これらの作業は写真付きの仕様書で文書化し、周知を行い、製造メンバーは確実に同じやり方をするようにしました。

歩留りは約20%改善。目標の90%を捉えることに成功。

これらの①~④の対策を行うことにより、歩留りは約20%改善し目標の90%を捉えることができました

このことにより、原材料費・副資材費などを併せ、月に約200万円の損金を削減することができました。それ以外に、消費電力の大きい生産機械の稼働回数を減らし、前工程・後工程を含めた工数の削減も行うことができました。

長年解決できなかった重いテーマでしたが、多くの協力を得て解決までたどり着くことができ、大きな達成感を味わうことができました。

(2)現場の改善意識の変化

この作業環境の改善による歩留り改善の活動においては、製造メンバーが非常に大きな役割を担ってくれました。

当初、改善活動を始めた際には、長年解決できなかった問題ということもあり、チーム全体として積極的でない状態でしたが、活動の初期に可視化・見える化を行った際、メンバーは一気に興味を深めることができました。

今まで苦しんできた見えない問題を実際に見て知ることができ、「正体をつかんだら何とか解決することができる」という気持ちを持てたのだと思います。

その後も、打合せなどでも意見を尊重し、活動してくれたことを褒め、今回で問題を解決しようと励まし合ったことでモチベーションを高く保つことができました。

役割分担の際に自分から手を上げる人が増えただけではなく、気になったことは自分で簡易的なテストをしてその結果を持って相談しに来てくれるようになりました。

メンバーは、自分たちで原因をつきとめて何かしらの改善をすることができるという自信を持つことができ、自分たちの現場は自分たちでよくするという自立性を持つことができました。

改善活動により利益を増やせたことも当然うれしかったのですが、メンバーの成長の方がよりうれしく感じたように思います。

(3)改善活動に関する費用の抑制

当初より、改善活動に充てられる予算が少ないことが分かっていたため、評価や対策にかける費用を最低限に抑えて進めていきました。

例えば、空調が悪い、生産機械が悪い、建物が古い、など作業環境の不備を指摘し、全て更新するような決裁ができていたら、これらの改善活動は非常に単純な問題として解決できたかと思います。

しかし、今現在使えるリソースでどうにか少しでも改善ができないかとチーム内で工夫を重ねたことで、費用を最低限まで抑えることができました

関連部門のメンバーや責任者から、次のような感想をいただきました。

  • さすがに目標達成は無理だと思っていた。
  • 自分たちがこんなにできると思わなかった。
  • チームをやる気にさせてくれてありがとう。
  • 自分たちで今後もがんばって、絶対いいチームにしていく。

関連して感じたことですが、根っから不真面目でさぼりたい社員というのは、それほど多くはいません。がんばらない、がんばれない人には、何かしら理由があります。その理由を取り除く手伝いをすれば、十分にがんばってくれます。

良い状態で仕事をしてもらえれば、成功して喜んでも、失敗して悔しがっても、いきいきとした良い表情を見ることができます。

最後に、これらの活動を通して私が学び実践したポイントを挙げておきます。
これらからヒントを得て、事業を進める中で何かのお役に立てれば幸いです。

  • 見える化をすることで、関係者の意識をそろえることができ活動をやりやすくなります。
  • 問題の解決には、原因と考えていることが本当かどうかよく検討することが重要です。
  • 効果がありそうな対策は、計画を練ったりお金をかけたりする前に、まずテストをしてみると後戻りが少なくなります。
  • チームが前向きな状態の方が、よりよい結果を生み出します。
  • 予算が少なくても、工夫次第で大きな効果を得られることも多くあります。