製造工程で発生する膨大なデータ。
あなたの会社では、データを効率的に収集したり、有効に活用したりできているでしょうか。
「データを収集しているが、活かせていない」とお悩みの経営者の方が多いのも事実です。
そこで今回は、データ活用事例を中心にメリットや具体的な活用方法をお伝えします。
データを活用して、生産性向上、利益増大などの成果を得ていただければ幸いです。
製造業におけるデータ活用の背景と目的
近年、製造業においてデータ活用の重要性が注目されています。
データ活用というと漠然とした印象ですね。
この章では、データ活用が重要視されている背景や、データ活用の目的について詳しく解説します。
製造業におけるデータ活用の背景
製造業ではデータを活用することで、効率向上、品質向上、競争力強化など多岐にわたる項目において成果が期待できます。
例えば、生産工程をモニタリングし、ボトルネックやムダを把握するなど。
収集したデータに基づく洞察を得て、作業の最適化や生産計画の最適化が可能になります。
また、機械の稼働状況をデータ分析すれば、機器の故障やメンテナンスが必要な箇所の予測にも役立ちます。
データを活かして計画的にメンテナンスすれば、生産中断や機器の故障による損失を最小限に抑えられるでしょう。
さらに、データを活用して顧客満足度の向上やサプライチェーンの最適化も可能です。
製造業におけるデータ活用は、迅速で正確な意思決定、競争激化する市場において持続可能な成功を収めるために必要不可欠な要素となっています。
データ活用が必要とされる主要な目的
データ活用が必要とされる目的は、主に7つあります。
- 効率向上
- リスク管理
- コスト削減
- 市場競争力の向上
- 意思決定の精度向上
- コンプライアンスの強化
- 新たなビジネスモデルの創造
データ活用が重要である理由は、ビジネスの環境が複雑化し競争が激化する中で、データが非常に価値のある資産となるからです。
データ活用によるメリットとその実現手法
データ活用にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
データを収集するだけで「活用できていない」「実際どのように活用するのか?」といった意見を多く耳にします。
貴重なデータを大いに活用すれば、業務効率化改善や収益向上が期待できます。
現実的な手法と共にメリットを解説します。
業務効率改善
データを活用すると得られるメリットとして、業務効率改善があります。
生産ラインにセンサーやIoTデバイスを取付ければ、機器から自動的にデータを収集できます。
データを活用して生産ラインの状況を把握し、ムダを洗い出し業務改善に役立てましょう。
また、センサーデータを分析し製品の品質をリアルタイムで監視するのもおすすめです。
万が一以上が検知されれば即座に対応でき、品質の安定化に寄与します。
データを収集するだけではなく、分析して問題点を可視化するのが重要です。
問題解決によって業務効率が改善し、生産性向上やコスト削減などのメリットが得られます。
製造業における業務改善の重要性や方法については、こちらの記事でも詳しく解説しています。
収益向上
データ分析・活用によって収益向上が期待できます。
例えば、データを活用して市場の需要トレンドや顧客の購買動向を把握すれば、正確な需要予測が可能になるでしょう。
需要に応じた生産計画を立て、在庫管理の最適化が図れます。
さらに、サプライチエーン全体を最適化すれば、原材料や部品の調達コストが削減できます。
顧客満足度の向上やコスト削減は収益向上のために欠かせない要素です。
データを大いに活用し、市場競争において優位性を維持しましょう。
進め方と必要な手順
データ活用を進めるには、企業内で計画的に取り組む必要があります。
一般的なデータ活用の進め方と必要な手順を解説します。
1.ビジョンの明確化
データ活用の目標やビジョンを社内で共有し、理解を深めます。
データをどのように活用し、どのような成果を得るか明確に定義しておきましょう。
2.データインフラの整備
大量のデータを効果的に格納し、取扱えるようにデータインフラを整備します。
データセキュリティの確保も忘れずに行いましょう。
データを活用する前に、不正確なデータの修正や欠損データの処理、複数のデータソースの統合などの準備も行ないます。
3.データ分析の導入
企業野ニーズに合ったデータ分析ツールを選定します。
必要ならばデータ分析の専門家を雇用したり、意見を聞いたりするのもいいでしょう。
データの収集、保管、利用に関する規約を策定し、ガイドラインを作成しておくと安心です。
4.プロジェクトの進行と改善
データ活用の実証として小規模なプロジェクトを選定します。
プロジェクトの進捗と成果を定期的に観測し、結果をもとに改善してください。
成功したプロジェクトから学習し、データ活用の取り組みを社内全体に展開します。
5.文化の浸透
データ活用を企業文化に取り入れ、従業員がデータを活用して意思決定を行う文化を醸成します。
企業全体でデータ活用の理解を深めましょう。
この手順を進めれば、データ活用が企業内で効果的かつ持続的なものになります。
製造業におけるデータ活用事例
データを活用して業務改善や収益増加を実現した事例を5つ紹介します。
成功事例をヒントにして、自社のデータ活用に役立ててください。
金属加工メーカー(長野県)
長野県にある金属熱処理・表面加工メーカ―の事例です。
この会社では従業員の能力やスキルに依存し、生産効率が向上しない状況が課題だと考えていました。
そこで、段取り時間データ、付帯作業時間データを取得し、ムリ、ムダ、ムラの洗い出しに取り組んだのです。
付帯業務の内容や所要時間などをデータベース化しました。
さらに、仮説に基づき付帯業務を専任化し作業に集中できる環境作りを実行しました。
仮説実施からどのような結果が得られたのかについてもデータを分析し、検証したのです。
付帯作業の非効率さが浮き彫りになり、さらに現場には改善の余地が多数あると把握できたそうです。
取り組みの結果、作業者の負担が軽減し作業効率は3割向上しました。
データ活用によって習慣化している業務のなかにあるムリ、ムダ、ムラを可視化し生産性向上につなげた成功例と言えるでしょう。
参考:経済産業省 関東経済産業局 地域中小企業データ活用ブートキャンプ事例②
20230420bootcamp_jirei.pdf (meti.go.jp)
工作機械メーカー(福井県)
福井県にあるマシニングセンタや金属光造形複合加工機などの工作機械メーカーの事例を紹介します。
この会社では、北米や欧州のメーカーが主要取引先であり、海外売上高70%を超えていました。
自社工場に海外から顧客を招き信頼関係を構築する営業手法をとっており、いわば工場がショールームとして機能していたのです。
ところが、感染症の流行により営業手法の見直しが迫られます。
営業ノウハウがなく専門人材もいない状況でした。
そこで、新たな営業手法としてデジタルコンテンツの発信を考案。
ものづくりの現場をさまざまな角度から動画で発信したのです。
動画の反響は大きく、工場見学の代替え手段として機能します。
動画は営業部門だけでなく、製造部門の従業員のモチベーションアップにも寄与したそうです。
取り組み開始から15カ月で動画コンテンツは300種類を超えました。
同社の採用面接には、動画を見たという学生も訪れているといいます。
営業手法を切り替える発想の転換も、広い意味でデータの活用と言えるでしょう。
長年蓄積したデータや技術を、新たな視点で活用した事例です。
参考:中小企業庁 2022年版「中小企業白書」第2節 中小企業におけるデジタル化とデータ利活用
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2022/chusho/b2_3_2.html
建築金物製造・販売(新潟県)
建築金物、金属屋根部品などを取扱う新潟県の会社の事例を紹介します。
この会社では、注文額3万円以上で送料無料というサービスを提供していました。
送料無料を勘案し、追加注文を提案する営業手法です。
このため、受注、出荷指示、出荷許可が午前中にピークを迎える状態でした。
ピークタイムに備えた人員確保が課題です。
そこで、一部の拠点で注文額にかかわらず送料無料とし、追加注文提案営業を廃止する実証実験に踏み切りました。
取り組みの前後で受注、出荷プロセスの処理時刻データをもとに、リードタイムとピークタイムの変化を分析したのです。
さらに運賃収入データも加味して変化を分析しました。
取り組みデータを分析した結果、リードタイムを30%削減、ピークタイム緩和を実現できたそうです。
注文額3万円以上は競合他社でも提供していたサービスであり、自社にマッチしていなかったのではないでしょうか。
課題解決に向けた積極的な取り組み、詳細なデータ収集によって成果を上げた事例です。
参考:参考:経済産業省 関東経済産業局
令和4年地域中小企業データ活用ブートキャンプ事①
20220704bootcamp_gaiyou.pdf (meti.go.jp)
工業用ゴム製品製造・販売(埼玉県)
工業用ゴム製品を製造販売する会社のデータ活用例を紹介します。
この会社では名刺管理ソフトを使用していましたが、顧客データが活用できていないという課題がありました。
名刺データを単にDM送付用の名簿としてではなく、顧客属性に応じた営業などに活用したいと考えていたのです。
そこで、名刺管理ソフトのデータをメール送信に活用しました。
クリック率を分析しDMの内容を改善。
同じ製品群を複数回クリックした顧客に対して、個別アプローチを実施しました。
つまり、顧客の関心に適した展示会・新商品の案内などを発信したのです。
この結果、ホームページの閲覧回数は30%アップし、動画閲覧回数は2.5倍になりました。
活用できていない名刺データに着目して、製品知名度をアップさせた成功事例です。
参考:経済産業省 関東経済産業局
令和4年地域中小企業データ活用ブートキャンプ例②
20220704bootcamp_gaiyou.pdf (meti.go.jp)
スリット加工業(千葉県)
千葉県にあるスリット加工業者の事例を紹介します。
紙・フィルム・アルミなどロール状の原反を一定の幅に切断して、再びロールとして巻き上げるのがスリット加工。
同社では、原反の種類や数量、加工の内容、数量、金額などを記録した日誌を作成し、リピート注文の対応などに活用していたそうです。
また原反を倉庫に保管し、台帳による在庫管理を行なっていました。
事務作業は全て手書き、手計算のため、業務の省力化が課題です。
課題解決のため、販売管理ソフトや在庫管理ソフトなどを導入しデジタル化を推進しました。
デジタル化が困難だった日誌についても、開発をすすめ最終的にデータベース化に成功したといいます。
ベース化の効果は、業務の省力化だけにとどまりません。
顧客アピール、ブランドイメージの創出に寄与し、同業他社との差別化に成功しています。
新規顧客の単価は約15%アップし、受注予想や生産計画、マーケティング戦略の立案にも日誌データを活用しているそうです。
蓄積した貴重なデータを大いに活用して、利益増大に寄与した事例です。
参考:中小企業庁 2022年版「中小企業白書」第2節 中小企業におけるデジタル化とデータ利活用
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2022/chusho/b2_3_2.html
データ活用がもたらす未来と新たな可能性
データ活用は、製造業に明るい未来をもたらします。
課題解決だけではない、新たな可能性について解説します。
シームレスな生産ラインの実現
データ活用はシームレスな生産ラインを実現させます。
シームレスな生産ラインとは、異なる工程や機器がスムーズに連携し一貫性のある生産プロセスの構築を意味します。
リアルタイムで生産データを収集し、分析、活用し現状の課題を把握しましょう。
まずは生産上の無駄を洗いだすのにデータ活用が有効です。
課題を一つずつ解決すれば、シームレスな生産ラインが実現できます。
AIやIoTの更なる進展による製造業の変革
AIは生産ラインにおいてパターン認識や異常検知、最適化などのタスクに活用できます。
予測メンテナンスや自己最適化型の生産プロセスを実現し、生産効率を飛躍的に向上させるのがAIです。
さらに、IoTの進化によって多くのデバイスやセンサーが生産ラインに統合できます。
リアルタイムで大量のデータ取得を可能にするのがIoTです。
データ取得と分析を容易にするのがIoTの進展です。
AIやIoTの進展により、将来的に生産ラインはよりスマートで効率的に運用でき、製造業全体がより持続可能で柔軟な形態へ生まれ変わると期待しています。
以下の記事では、製造業におけるIoT導入事例を紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
データ活用に向けた製造業の取り組み方と注意点
製造業におけるデータ活用には、いくつか注意点があります。
ここからは、取り組み方のポイントや注意点をお伝えします。
注意点を理解したうえで、積極的に取り組みデータ活用のメリットを活かしましょう。
解決すべき課題の設定と解決策の洗い出し
データ活用によって製造業に発生するさまざまな課題を特定し、優先順位を付ける必要があります。
どの課題が生産性や品質に大きな影響を与えているのか、洗い出しましょう。
課題を特定すれば具体的な解決に向けて、データ活用の方針が確立できます。
課題を解決するためには、適切なテクノロジーやツールの選定が必要です。
どの技術が特定の課題に最も適切かを考慮しなければなりません。
課題の設定と解決策の洗い出しを進めることで、データ活用がより具体的で効率的なものとなるでしょう。
必要なデータの収集と活用
データを効率的に活用するためには、データ収集の計画立案が必須です。
どのデータをどのように収集するか、どのセンサーやデバイスを使用するのか、データの頻度や制度の要件などを策定しましょう。
また、データの保管墓所やセキュリティも検討する必要があります。
必要なデータを正確に収集し活用すれば、製造業は効率向上、品質向上、コスト削減などの成果が得られます。
成果を生かしてさらなるステップアップを図る
データ活用の成果を最大化するには、全社的にデータ駆動型の文化を確立する必要があります。
データに基づいた意思決定を奨励し、従業員がデータを理解し、利用できるようにトレーニングや教育プログラムを導入してください。
データから得た洞察や成果を、共有し連携強化を図りましょう。
部門間や取引先との協力を進め、データ活用の付加価値を最大限に引き出します。
また、成果を利用して予測分析を強化し、将来のトレンドやリスクを予測するのもいいでしょう。
データ活用の成果を最大限に引き出し、製造業の競争力向上や持続可能な発展を量りましょう。
製造業のデータ活用で現場の効率化を実現しよう
今回は製造業におけるデータ活用について詳しく解説しました。
データ活用には、業務効率改善、利益増大など多くのメリットがあります。
データを収集するだけで活用していないのは、非常にもったいないと言わざるを得ません。
ぜひ自社に眠っている活用できていないデータに注目して、成長に役立ててください。
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