少子高齢化によって工場で働く人が減少している昨今では、デジタル化が重要視されています。
工場のデジタル化をしなければ、未来の少子高齢化に伴って工場は経営を続けていけなくなる恐れがあります。
そこで本記事では、工場デジタル化によるメリットや事例について解説します。
現状の課題から解説していきますので、ぜひ自社工場に照らし合わせて確認していきましょう。
工場デジタル化の種類一覧
まずは工場デジタル化にどのようなものがあるのか見ていきましょう。
デジタル化と一重にいっても様々なものがあります。
- AI
- IoT
- カメラ
- ロボット
- システム
上記のツールを導入すれば、業務の効率化や生産性の向上を実現できます。
工場のデジタル化は遅れている?
各業界でDX化が推進されている昨今のなかで、工場はデジタル化が遅れている業界です。
未だにアナログな方法で生産を進めている工場も多くあります。
実際にどの程度の工場のデジタル化が遅れているのか見ていきましょう。
工場デジタル化の現状
工場デジタル化の現状は、大幅に遅れをとっています。
遅れているだけではありません。今後も実施をしないという工場もあるほどです。
実際にどのような意見が多いのか、以下でアンケート結果による調査を紹介します。
企業のデジタル技術活用に関するアンケート
各省庁のアンケートによるデジタル化の取り組み状況について紹介します。
総務省の「令和3年版 情報通信白書|我が国におけるデジタル化の取組状況」によると、約6割の企業は「実施していない、今後も予定なし」と回答しています。
業界別にみると情報通信業の約45%の企業がデジタル化を実施しているのに対して、製造業のデジタル化のとりくみは25%前後に留まっているとわかりました。
さらに別のアンケート調査も紹介します。
経済産業省の「2020年版ものづくり白書」によると、製造業のデジタル技術の活用状況は以下のようになりました。
- すでに活用している…49%
- 活用を検討中…24%
- 活用していない…22%
- 無回答…5%
製造業全体ではすでに半数がデジタル化を実施していますが、数としては多いとは言えません。
これらのアンケート結果からも工場全体のデジタル化への取り組みが遅れているとわかります。
なぜ工場デジタル化は進まないのか?現状の課題
工場デジタル化の実施にあたってはいくつかの課題があります。
- 設備投資が必要
- 工場の人材不足
- 属人的な文化
上記の理由から、デジタル化によって生産性が向上することは明確でありながらも、進められない状態になっているのです。
それぞれがどのようにデジタル化を止めてしまっているのか、以下で具体的に解説します。
設備投資が必要
工場のデジタル化を実施するには費用がかかります。
IT機器や新しいシステムなど、製品に関係する以外の機器を揃えるには、ある程度の予算がなければいけません。
そのために費用を捻出できない工場のデジタル化が進まないのです。
ITやDXの必要性を感じていないために「費用をかけてまで実施できない」という工場もあるでしょう。
工場の人材不足
工場の人材不足もデジタル化を進められない要因の一つです。
人材不足による影響は以下の2つに分かれます。
- 人材不足のために目の前の作業に注力している
- IT知識のある人材がいない
とくに少子高齢化の進む日本では、若い人材の確保が難しい状況です。
若い人材がいないために「うちは昔ながらの方法でやっていこう」と考える工場もあるでしょう。
工場の人手不足が深刻化する理由については、以下の記事で詳しく解説しています。
属人的な文化
昔ながらの属人的な文化が残っていることも工場のデジタル化が遅れる原因です。
人から人へと技術を継承してきた職人肌の人にとっては、IT技術は不要に感じてしまいます。
なかにはいまだに「手元を見て覚える」といった文化が残る工場もあります。
このような職人の理解が得られなければ工場のデジタル化は進んでいきません。
工場デジタル化の例
工場のデジタル化といっても「何を導入すべきかわからない」「どのような方法で実施すれば良いのかわからない」という方もいるでしょう。
- IoT機器の導入
- ペーパーレス化
多くの工場でデジタル化は進んでいます。
以下で具体的に解説しますので、ぜひ実施を検討してください。
そこでいくつかの例を紹介します。
IoT機器の導入
IoTとは「モノのインターネット」という意味です。
工場では、主に使用する機器のデータを収集する役割を持ちます。
たとえば「生産ラインの見える化・省エネ化・設備の自立制御化」が可能です。
データをもとに分析・改善をしていけば生産性向上につながります。
工場のIoT導入については、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
ペーパーレス化
最も簡単に実施しやすいデジタル化が、ペーパーレス化です。
文字どおり、これまで紙でやり取りしていた情報や資料をインターネット経由で確認できるようにします。
インターネットで確認できるようになれば、これまで書類にかかっていた経費がかかりません。
また「書類をどこにしまったかわからない」「大事な書類を誤って破棄してしまった」といったヒューマンエラーも起きません。紙より各段に検索をしやすくなる・見つけやすくなるという点も大きなメリットと言えます。
ロボットによる自動化及び省力化
簡易的な業務を自動化、省力化できるロボットの導入も進んでいます。
ロボットを導入すれば、その分の人員コストを削減できるからです。
簡単な繰り返し作業をロボットに任せて複雑な作業を人の手でおこなうようにすれば、生産性も向上するでしょう。
工場のデジタル化で得られるメリット
工場のデジタル化には多くのメリットがあります。
- データの見える化による生産性向上
- IT技術による生産コスト削減
- 自動化による品質の一定化
- 属人化の脱却による人手不足の問題解消
上記のメリットを得るためにデジタル化をどのように活用すべきか、以下で解説します。
データの見える化による生産性向上
工場のデジタル化によって生産性を高められます。
なぜなら、工場にある数多くのデータの可視化、分析ができるからです。
たとえばリアルタイムで実在庫のデータ収集、分析、遠隔管理ができるようになればこれまで人の手で在庫を確認していた時間を短縮できます。
さらにデータをもとにして各工程で起きる生産性低下の原因を突き止めることもできるので、現場力の向上に期待できるでしょう。
「データの分析」というと難しく感じるかもしれませんが、上手く活用できれば高い効果に期待できます。
工場のデジタル化、見える化によって生産性向上を実現した事例については、以下の記事で詳しく解説しています。
データ分析による生産コスト削減
IT技術を導入すれば生産コストを削減できます。
なぜならデータ分析によって工場の無駄を洗い出せるからです。
これまで見つけられなかった課題も明らかにできるので、確実に生産コストを削減できます。
また、改善によってできた余力で、より生産性の高い業務に人員をあてられます。
自動化による一定の品質
ロボットを使って作業を自動化すれば、製品の品質を一定に保てるようになります。
ロボットであれば人間のようなヒューマンエラーを起こさないからです。
とくにロボットは繰り返しの作業が得意なので、ライン生産をおこなっている工場であれば大きな活躍に期待できるでしょう。
また、AIロボットであれば自ら学習してより効率的に作業を進めてくれます。
属人化の脱却による人手不足の問題解消
IT技術を用いれば属人的な業務から脱却できます。
近年、製造業を中心に人手不足が深刻化しています。高齢化による労働人口の減少に加え、製造業における3K(きつい、汚い、危険)のイメージが払拭できず、若い世代の担い手不足が顕著です。
こうした状況下で、属人化の脱却は人手不足問題の解決策として注目されています。属人化とは、特定の個人に業務の知識やスキルが集中し、その人がいなければ業務が回らない状態を指します。属人化が進むと、以下のような問題が発生します。
- 人手不足: 特定の個人に業務が集中するため、その人が休んだり、退職したりすると業務が滞ってしまう。
- 品質低下: 業務の標準化が難しいため、品質が安定しない。
- ノウハウの流出: 個人に依存しているため、その人が退職するとノウハウが流出してしまう。
IT技術を用いれば、これらの問題を解決し、属人化の脱却を実現することができます。
- 作業のデータ化: これまで経験や勘に頼っていた作業を、データ化することで再現性を持たせる。
- 機械学習: データに基づいて機械が作業方法を学習し、自動化を実現する。
- マニュアル作成: データを分析して、誰でもわかるようにマニュアルを作成する。
これらの方法により、以下のメリットを得ることができます。
- 人手不足の解消: 単純作業を自動化することで、人手を他の業務に振り向けることができる。
- 品質の向上: 作業を標準化することで、品質を安定させることができる。
- ノウハウの蓄積: データやマニュアルに蓄積することで、ノウハウの流出を防ぐことができる。
具体的な事例
IT技術を用いた属人化の脱却事例として、以下のようなものがあります。
- 自動車メーカー: ロボットとAIを導入して、溶接作業を自動化。
- 食品メーカー: 画像認識技術を用いて、製品の検査を自動化。
- 建設業: BIM(Building Information Modeling)を用いて、設計図をデータ化。
これらの事例は、IT技術が属人化の脱却に有効であることを示しています。
工場のデジタル化導入事例
工場のデジタル化導入事例を紹介します。
大手の工場では積極的にデジタル化に取り組んでいます。
- ダイキン工業株式会社
- TOTO株式会社
- 株式会社島精機製作所
- シンフォニアテクノロジー株式会社
- トヨタ自動車株式会社
それぞれのデジタル化の例を参考に、自社でも取り組んでみましょう。
ダイキン工業株式会社
ダイキン工業株式会社では、熟練技術者の不足を解決するためにデジタル化に取り組みました。
日立製作所との協業で以下2つの取り組みに成功しています。
- 部材を接合する「ろう付け」作業のデジタル化
- 作業評価システムの開発
とくに「ろう付け」は高いレベルの技術が必要で、熟練者の経験が必須でした。
しかし、デジタル化によって技術継承が効率化になり研修期間も大きく改善されました。
TOTO株式会社
TOTO株式会社は、2004年から社内業務のデータ活用を推進しています。
具体的な取り組みは以下の3つです。
- IoTによる製造データの取得
- データの可視化
- 不良要因の分析
さらに、データを活用してPDCAによる良品の割合増加を目指したところ、半年で過去最高の歩留まりを達成しました。
今後もすべての工場内でデータ活用を進めていく方針です。
株式会社島精機製作所
株式会社島精機製作所は、ニットを編むマシンや洋服にプリントをするマシンを製作するメーカーです。
同社で実施したデジタル化は、糸切れ検知装置の組み立て加工工程へのロボット導入。
従来は組み立てを手作業でおこなっていましたが、以下の課題がありました。
- 人による品質のバラつき
- 人数不足
ロボットを導入した結果、従来必要だった人員は8人から3人まで抑えられるようになりました。
労働生産性も2.7倍にまで上昇しています。
シンフォニアテクノロジー株式会社
シンフォニアテクノロジー株式会社では、RFID(Radio Frequency Identification)ソリューションを導入しました。
RFIDソリューションとは、情報が書き込まれたタグと電波などをワイヤレス通信して情報の読み取り・書き換えをするシステムです。
同社では、これまでプリンタの標準在庫部品の入出庫処理を手入力のバッチ処理で実施していました。
しかし、複数の処理を一括で行うために以下の課題があったのです。
- 部品捜索に時間がかかる
- 部品の紛失
- 部品不足による生産遅延
RFID ソリューションを導入した結果「入荷部品の捜索時間が90%削減・棚卸し業務時間が64%削減・部品不足による生産計画遅延ゼロ」となりました。
トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車株式会社では工場IoTを導入しました。
技術開発にともなう効率や費用対効果に課題があったためです。
そのために、3D CADデータなど既存のデジタル化データを一元管理化し、部署間にまたがる共有プラットフォームを構築。
各事業部・工場でも工場IoTのプラットフォームを使った現場プロジェクトを立ち上げ、費用対効果を上げました。
まとめ:工場のデジタル化実現のために欠かせないのは「理解」
工場のデジタル化は生産性向上や人材不足など、多くの課題を解決してくれます。
しかし、ただデジタル化を導入するだけで解決するわけではありません。
効率的に使うためには経営層と従業員、双方のデジタル化への理解が必要です。
デジタル化のメリットや知識はもちろんですが、従業員に対して「なぜやるのか?何が変わるのか?」まで理解してもらわなければいけません。
従業員の理解や協力がなければデジタル化を導入しても「手間・面倒」と感じられてしまうからです。
そのためにまずは社内環境の改善も見直してみましょう。従業員の主体性が上がればデジタル化もスムーズに進みます。
ぜひデジタル化を検討すると同時にチームビルディングも見直してみてください。
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