高齢者の増加や高度な医療技術の発達によって介護施設や老人ホームではなく「最後まで自宅で暮らしたい」と考える高齢者が増えました。それに伴い、訪問看護の需要も増えています。
しかし需要が増えている一方で訪問看護師の数は足りていません。
そこで本記事では訪問看護師の人手不足の現状や今後について解説していきます。
訪問看護が人手不足となっている原因
訪問看護が人手不足になっている原因は、主に以下の5つです。
- 離職が多い
- 少子高齢化の影響
- 訪問看護に携わる看護職が少ない
- 待遇を改善できない
- 心身の負担が大きい
単に母数が少ないといった理由から、人手不足を改善するための予算がないなど、理由は多岐にわたります。
以下でそれぞれについて具体的に見ていきましょう。
離職率の推移
まずは訪問看護の現状について見ていくと、離職者が急増しているのがわかります。
公益社団法人日本看護協会が2020年に実施した「2020年病院看護実態調査」の報告によると、2020年の正規雇用者の離職率は11.5%、新卒採用者離職率は8.6%。
2014年時点と比べると、以下のように微増しているのがわかります。
2014年 | 2020年 | 差分 | |
正規雇用者の離職率 | 10.8% | 11.5% | +0.7% |
新卒採用者の離職率 | 7.5% | 8.6% | +1.1% |
上記のように少しずつではありながらも看護職の離職率は増えているのです。
少子高齢化による影響
訪問看護の人手不足には、少子高齢化が影響しています。
なぜなら、訪問看護を必要とする高齢者が増加し、働き手となる若者が少なるなるからです。
需要が多いのに対して供給が間に合っていない状態と言えます。
実際に少子高齢化がどのように進んでいるのかを見てみると、2022年10月1日時点での65歳以上の高齢化率が29%。日本の総人口は前年より556,000人少ない124,947,000人まで減少。出生率も統計開始以来、はじめて80万人を下回ったと報告されています。
今後も高齢者は増加していきますが、それを支える働き手は足りていない状態です。
訪問看護に携わる看護職が少ない
訪問看護に携わる看護職が少ないことも、人手不足の原因です。
厚生労働省の「令和2年衛生行政報告例」によると、2020年における看護師の就業者総数は128万人、うち訪問看護ステーションに就業している看護師はわずか約6万人というデータが明らかになりました。
2025年までには13万人の訪問看護職を確保しなければならないと言われているので、現時点では到底追いつかない状況です。
待遇を改善できない
訪問看護の待遇を改善できないために、人が集まらないといった状況が生まれています。
なぜなら、訪問看護ステーションに予算がないためです。
介護令和4年度「介護事業経営概況調査」の結果によると、赤字の訪問看護ステーションが約3割もあるとわかります。
赤字が続いてしまうために働く人の満足できる待遇を用意できないのです。
心身の負担が大きい
訪問看護ステーションの心身の負担も、人手不足の原因です。
心身の負担が大きいうえに待遇も改善されなければ、離職してしまうのは当然です。
とくに温コール対応をしているステーションでは、夜間勤務も発生します。
また人手不足により、一人あたりの負担も増えているために心身の負担は大きくなっていくばかりです。
訪問看護師だけでなく、看護業界では慢性的な人材不足が問題になっています。
看護師の人材不足の原因と、医療現場の問題点や解決策については、こちらの記事を参考にしてください。
訪問看護の人手不足は病院とは異なる性質も関係する
訪問看護の人手不足の原因には、病院とは異なる環境という点もあります。
なぜなら、病院ではないために一人ひとりのスキルの高さが求められるからです。
病院であれば設備が整っていますが、訪問看護は設備が整っていない自宅でおこなわなければいけません。そのばかで必要とされるのが看護師のスキルです。
このスキルのハードルが高いために訪問看護を不安に感じてしまいます。
以下でこれらのことがどのような不安につながっていくのか、具体的に解説します。
スキルや経験の不足からくる不安
訪問看護はスキルや経験が試されます。
なぜなら、必要なものをすべて自宅で代替しなければならないからです。
医療機器はもちろんのこと、きれいなタオルや消毒されている用品は揃っていません。
すべて看護師が用意したりアイデアを働かせて代替品を作ったりしなければいけないのです。
突発的な事態に対しても一人で初期判断をおこなわなければいけないために「ハードルが高い」と感じられてしまっています。
関連職種との関係構築が難しい
訪問看護には、関連職種との関係構築が求められます。
なぜなら自宅での看護には、医師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、ケアマネージャーなどが関わるからです。
大きな病院であればこれらすべての職種が揃っているので、連携はスムーズでしょう。
しかし訪問看護の場合は訪問する日時がバラバラで顔を合わせた相談ができません。
関係を構築できなければ患者さんに適した看護をおこえないので、不安要素の一つになってしまうのです。
訪問看護師が離職してしまう負担とは
訪問看護師の人手不足の原因は、離職率の多さもあります。
そして離職が多い原因が、負担の大きさです。
一人ひとりの負担が大きいために、訪問看護師としての仕事が続きません。
では、どのような負担が大きいのか、以下で具体的に解説します。
業務量が多い
訪問看護師の最も大きな負担は、業務量の多さです。
なぜなら訪問看護は「療養指導、医療処置、リハビリテーション看護等」などの幅広い業務内容が求められるからです。
さらに介護が必要な患者さんに対しては清潔ケアや排せつケアまでおこなわなければいけません。
これらの業務をサービス時間内に終わらせるのはとても困難です。
また、訪問看護を求める人は一人ではありませんから、何人もの患者さんに対して上記の業務をおこなう必要があります。
今後はさらに人手不足が深刻化していくと考えられるので、訪問看護の負担はより大きくなるでしょう。
休息がとれない
訪問看護師は、十分な休息もとれません。
人手不足と業務量の多さが原因です。
他の業種と同様に、早くサービスを終えれば次の訪問への間に休憩もとれます。
しかし業務が終わらずに訪問の間が詰まってしまえば、少しの休憩もなしに働かなければいけないシーンも出てきます。
場合によっては休憩時間中でも記録を作成したり電話対応したりするケースもあります。
これらの休む時間の少なさも、離職者が増える原因です。
訪問看護の人手不足対策に国の支援制度を活用
訪問看護の人手不足に対しては、厚生労働省を中心とした国の支援もあります。
国の支援制度を上手に利用すれば、人手不足に悩む訪問看護ステーションの待遇改善なども実施できるでしょう。
とくに今回紹介しておきたいのは、以下の3つです。
- 業務改善助成金
- 働き方改革推進支援助成金
- 人材活用システム
人手不足の訪問看護ステーションは、ぜひ以下を確認してみてください。
業務改善助成金
業務改善助成金では、設備投資にかかる最大600万円までの費用の一部が支給される制度です。
ただし助成金を受け取るには、事業所内の最低賃金を30円以上引き上げなければいけません。
また、助成金の金額は賃金の引き上げ額と賃金を引き上げる労働者の数によって分けられています。
働き方改革推進支援助成金
働き方改革推進支援助成金は、経費の一部が補助される助成金です。
取り組みの内容や経費の総額に応じて、最大200万円まで支給されます。
ただし条件として残業時間を削減し、有給休暇消化の促進に向けた職場の環境整備に取り組まなければいけません。
訪問看護職の人手不足対策
訪問看護ステーションは、今後の少子高齢化に向けても人手不足対策をおこなわなければいけません。
対策をおこなわないままでいれば、訪問看護師が少なくなり、事業所として運営できなくなる恐れがあります。
そこで、人手不足対策として実施すべき内容を紹介します。
- 労働環境の見直し
- 適切なマネジメント
- ICTの導入
- 訪問看護ステーションの魅力発信
いずれも働き手を増やすために必要な対策です。
具体的にどのように進めていくのかを、以下で解説します。
労働環境の見直し
まずは人が集まる訪問看護ステーションになるように、労働環境を見直しましょう。
就労条件や働き方に対して「きつそう」と感じられててしまえば、当然働き手は集まりません。
なかには、「直行直帰OK」や「業務内容によってはリモートワークOK」といったように予算をかけなくても労働環境を改善できる場合もあります。
訪問看護師の負担を少しでも軽減できるように、現状の労働環境を見直して改善していきましょう。
適切なマネジメント
離職を防ぐためにマネジメントに力を入れましょう。
マネジメントに注力すれば、精神的な負担を防げるからです。
たとえば、管理者がこまめに面談をして現状の不満を聞いたり相談にのってあげたりすることも大切です。
また、管理者自体がコーチングスキルを習得すれば、より適切なマネジメントができるようになります。
管理者のスキル一つで離職を防げるので、大きな予算をかける必要がありません。
ICTの導入
人手不足対策として、ICTの導入も検討しましょう。
ICTとは「Information and Communication Technology」の略称で、「情報通信技術」の意味をもちます。
ICTを導入すれば業務効率化が進んで、人手が少ない状況でも対応できるようになります。
訪問看護ステーションの主なICT導入の例は、以下の4つです。
- クラウド型電子カルテ
- クラウド型請求ソフト
- クラウド型勤怠管理システム
- 業務用チャットツール
上記のほかにも訪問看護ステーションの業務効率化を手助けするシステムやツールは多くあるので、ぜひ導入を検討してみてください。
訪問看護ステーションの魅力発信
働き手を集めるために、訪問看護ステーションの魅力を発信するようにしましょう。
なぜならスキルの不安や負担の大きさから、訪問看護師にはネガティブなイメージがついているからです。
これらのイメージを払しょくするためには、魅力的な部分を認知してもらわなければいけません。
たとえば、以下のような情報を発信すると良いでしょう。
- 社員インタビューによる仕事のやりがい・目的
- 働きやすさがわかる訪問ステーションの環境
- 人のためになる仕事だとわかる活動内容
- どのような人が向いているかわかる採用情報
無料で作れるホームページや採用サイトのほか、SNSでの発信も効果的です。
以下の記事では訪問看護師とも関わりの深いケアマネの人材不足について詳しく解説していますので、こちらも合わせて参考にしてください。
まとめ|人手不足対策にチーム一丸となって取り組みましょう
訪問看護ステーションの人手不足は深刻化していますが、適切に改善していけば人手不足を乗り越えていけます。
今回紹介した内容も参考にしながら、労働環境の改善や魅力の発信をおこなってみてください。
しかし最も大切なのは、現在働いている人達のチームワークです。
全員で「今を乗り切ろう」という気持ちがなければどのような改善をしても人は集まりません。
モチベーションを高めて全員が一丸となって取り組むから、魅力的な仕事になっていくのです。
そのために、まずは現状の不満や改善点を集めながらチームワークを強化してみてはいかがでしょうか。
小手先のツールやシステムに頼らず、ぜひ今のチームを強くするところから始めてみてください。
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