建築業界は、日本の高度経済成長期を支え、多くの住宅や施設を提供してくれました。
そんな建築業界ですが、現在は人手不足が深刻化し、仕事はあるのに倒産してしまう企業も出てきています。
少子高齢化が進んで労働人口がさらに低下していくなかで、建築業界では人手不足を解消するための早急な対策が必要です。
そこで今回は、建築業界の2025年問題と、人手不足を解消するための解決策を解説していきます。
建築業界の人手不足が深刻な原因
建築業界の人手不足が深刻になった原因は、以下の通りです。
- 職人の高齢化
- 現場作業は辛いというイメージ
- 建設需要の拡大
- 労働時間に対して収入が低い
それぞれの原因について解説していきます。
職人の高齢化
建築業界は、長年にわたる経験と熟練技術を持つ職人の高齢化に直面しています。
国土交通省の「建設投資、許可業者数及び就業者数の推移」によると、建設業界に従事する労働者のピークは、1997年の685万人でした。
2021年には労働者の人数は485万人にまで減り、多くの企業で人手不足になっています。
多くの職人が定年を理由に引退することで、業界内の人手不足は加速しています。
新たに入社する若手よりも引退する職人が多いのが、人手不足の原因です。
現場作業は辛いというイメージ
建築現場での作業は重労働であることが多く、寒暖差の激しい環境の中での長時間労働が常態化しています。
その理由から、建築業界全体が過酷というネガティブなイメージを持たれがちです。
特に若い世代にとって、過酷なイメージは入社を敬遠させる主要な要因の一つとなっています。
若者が建築業界に魅力を感じるような働き方改革や、業界イメージの改善が急務とされています。
建設需要の拡大
2008年のリーマンショックで落ち込んだ建設需要は、その後の経済の回復と共に増加しています。
さらに、2011年の東日本大震災や2020年の東京に関連して、住宅の修繕や新築の需要も増加しました。
現在も建築需要は一定のままですが、従事する職人が減っていることから慢性的な人手不足が続いています。
労働時間に対して給与が低い
建築業界は長時間労働が常態化しているにもかかわらず、その労働に見合った給与が得られにくいという問題があります。
特に若い世代の人材にとって、不十分な給与しか得られない企業は魅力的な就職先とは見なされていません。
また、すでに職人として働いている人がさらなる収入アップを見込んで他業界へ転職してしまうケースもあります。
この給与問題は、建築業界からの人材流出を促す要因となり、技術や経験が必要な現場での人材不足を招いています。
建築業界にとって深刻な2025年問題
建築業界には、2025年問題という深刻な問題が迫っています。
2025年問題とはどんな問題か、建築業界にとってなぜ深刻なのか、その理由について解説していきます。
建築業界の2025年問題とは?
2025年問題は、熟練した職人の退職が集中する時期を指し、これにより一層深刻な人手不足が発生することが懸念されています。
その理由は、1947年~1949年の第1次ベビーブームに生まれた団塊の世代が後期高齢者になるためです。
1人親方を含めた多くの職人が2025年に向けて建築業界を去ることで、その知識と経験を失ってしまう可能性があります。
2025年問題が建築業にとって深刻な理由
2025年問題が建築業界にとって特に深刻な理由は、熟練の職人が大量に退職することにより、生産性や品質が低下するリスクが高いことです。
経験豊富な職人や技術者が退職することで、特に品質の高い作業や複雑なプロジェクトにおいて、専門知識と経験の欠如を招く可能性があります。
若い世代の職人が不足している現状では、熟練の職人が培った技術やノウハウが次世代に十分に継承されず、業界全体の技術力が低下する点も懸念事項です。
単純な人手不足だけでなく、技術力の低下は工期の遅延や建築コスト増加、さらには安全性の問題を引き起こす可能性があります。
そのため、この2025年問題に対応するための対策が急務となっています。
建築業界の人手不足に対する国土交通省の対策
建築業界の人手不足が深刻化することは、国土交通省も把握しています。
国土交通省では、以下のような取り組みを始めました。
- 給与と社会保障に対する取り組み
- 労働時間に対する取り組み
- 職人の負担を軽減する取り組み
それぞれの取り組みについて、詳しく解説していきます。
給与と社会保障に対する取り組み
国土交通省は、建築業界の深刻な人手不足問題に対応するため、労働者の給与向上と社会保障の充実に重点を置いた取り組みを進めています。
具体的には、以下のような取り組みです。
- 技能や経験にふさわしい処遇(給与)を実現する
- 社会保険への加入を建設業を営む上でのミニマム・スタンダードにする
給与面では、以下のような対策を発表しました。
- 労務単価の改訂が下請の建設企業まで行き渡るよう、発注関係団体・建設業団体に対して労務単価の活用や適切な賃金水準の確保を要請する
- 建設キャリアアップシステムの今秋の稼働と、概ね5年で全ての建設技能者(約330万人)の加入を推進する
- 技能・経験にふさわしい処遇(給与)が実現するよう、建設技能者の能力評価制度を策定する
- 能力評価制度の検討結果を踏まえ、高い技能・経験を有する建設技能者に対する公共工事での評価や当該技能者を雇用する専門工事企業の施工能力等の見える化を検討する
- 民間発注工事における建設業の退職金共済制度の普及を関係団体に対して働きかける
社会保障面では、以下のような対策を発表しています。
- 全ての発注者に対して、工事施工について、下請の建設企業を含め、社会保険加入業者に限定するよう要請する
- 社会保険に未加入の建設企業は、建設業の許可・更新を認めない仕組みを構築する
労働者が安心して働くためには、十分な給与と社会保障が必要です。
国土交通省は、下請けの職人まで十分な給与がもらえるような対策を講じました。
(引用:国土交通省「建設業働き方改革加速化プログラム」P1)
労働時間に対する取り組み
工期が最優先の建築現場では、職人は休日を返上して仕事に取り組むことも度々ありました。
国土交通省は、労働時間の適正化を重要な課題と捉え、長時間労働の是正に向けて以下のような取り組みを進めています。
- 週休2日制の導入を後押しする
- 各発注者の特性を踏まえた適正な工期設定を推進する
週休2日を達成した企業や女性の雇用を推進している企業など、働き方改革に積極的に取り組む企業を積極的に評価することで、建築業界全体での働き方改革を進めることが目的です。
公共工事で週休2日工事を採用した企業には、労務費等の補正だけでなく、共通仮設費や現場管理費の補正率を見直すとも明記しています。
(引用:国土交通省「建設業働き方改革加速化プログラム」P1)
職人の負担を軽減する取り組み
建築現場での職人の負担軽減を達成するために、国土交通省は以下のような発表をしています。
- 生産性の向上に取り組む建設企業を後押しする
- 仕事を効率化する
- 限られた人材・資機材の効率的な活用を促進する
- 重層下請構造改善のため、下請次数削減方策を検討する
具体的には、中小企業のデジタル化を促進するために公共工事の積算基準等を改善したり、現場技術者の将来的な減少を見据えて、技術者配置要件の合理化を検討したりして業務の効率化を図っています。
また、建設許可の手続きをデジタル化して簡略化することも明記しています。
(引用:国土交通省「建設業働き方改革加速化プログラム」P1)
建築業の人手不足を解消するための解決策
国土交通省も人手不足の対策を講じていますが、建築業を営む企業も独自の対策が必要です。
具体的には、以下のような解決策があります。
- 建築業界のイメージを改善する
- 給与体系を見直す
- 労働環境を見直す
- 適切な工期を設定する
それぞれの解決策について、詳しく解説していきます。
建築業界のイメージを改善する
建築業界に対するイメージの改善は、特に若い世代の人材採用に極めて重要です。
若い世代の人材を採用するためには、仕事の魅力を前面に出した広報活動や働きやすさをアピールするためのキャンペーンが必要です。
また、教育機関と連携して、建築業界のキャリアパスに関する情報提供や職業体験プログラムの実施も考えられます。
若い世代にとって建築業界が身近になることで、新たな労働力の採用が可能になります。
給与体系を見直す
給与体系の見直しは、建築業界での働きがいを高めるために不可欠です。
具体的には、職人の実績やスキルに応じた適切な給与体系の導入、多様な福利厚生や手当の提供があります。
特に若い世代や未経験者に対しては、給与面での魅力を高めることが重要です。
給与体系の見直しによって他業種への人材流出を防ぎ、新しい労働力の流入を促進できます。
労働環境を見直す
建築業界での労働環境の改善は、業界全体の成長と現場作業者の幸福に直結しています。
安全基準の強化や作業効率の向上、ストレス低減と快適な職場環境の提供などが重要です。
また、現場作業者のワーク・ライフ・バランスの改善にも注力し、長時間労働の是正や休暇制度の充実も必要です。
ワーク・ライフ・バランスが整うことで、若い世代の職人やこれから社会に出る学生にとって魅力にある仕事だと認識してもらえるようになるでしょう。
適切な工期を設定する
プロジェクトの工期設定は、現場労働者の負担軽減に直結する重要な要素です。
現実的で達成可能な工期を設定することで、無理のない労働環境を提供し、現場作業者の満足度と生産性の向上を目指します。
適切な計画と管理によって過剰な労働負担を回避し、現場作業者の健康と安全を守れます。
最新のシステムを活用する
建築業界における労働環境の改善と効率化には、最新の技術やシステムの導入が不可欠です。
建築業界に特化したソフトウェアの導入により、工期の計画や管理、コミュニケーションが効率化できます。
また、オンラインの会議システムなどの導入により、打ち合わせに必要な移動コストの削減や、現場の施工状況も共有できます。
最新技術を活用することで、業界全体の生産性向上を図れるでしょう。
建設業の生産性を向上させる方法については、以下の記事でも詳しく解説しています。
建築業の人手不足を解消するICT
建築業の人手不足解消には、ICT化が必要です。
初めてICTという言葉を聞いた人に向けて、以下の解説を行います。
- ICT「情報通信技術」とは?
- 建設業の現場にICTが必要な理由
- ICTによって職人不足は解消するか?
ICT「情報通信技術」とは?
ICT(情報通信技術)は、ITを活用した情報の収集や共有、伝達を指します。
ICTには、コンピューターシステムやインターネット、各種通信機器などが含まれ、幅広い業界で活用されています。
建築業界においても、ICTの利用はプロジェクトの効率化や品質の向上、そして労働力不足の解消に効果的です。
具体的には、建設現場の作業効率を高めるためのデータ分析ツール、コミュニケーションを円滑にするための共有プラットフォーム、リモート技術による遠隔操作や監視システムなどが含まれます。これらの技術により、建設現場の作業プロセスが改善され、人手不足の問題に対処することが可能になります。
建築業の現場にICTが必要な理由
建築業界におけるICTの必要な理由は、業務の効率化と安全性の向上にあります。
ICTツールを用いた工期管理やリソース配分を行うことで、限られた人材を最大限に活用できるためです。
図面のデジタル共有や工期変更の迅速な管理、通信環境の最適化によって現場作業の精度が向上し、ミスが減少します。
また、センサーや監視カメラを用いた安全管理システムを導入することで、建築現場の安全性が大幅に向上します。
ICTによって人手不足は解消するか?
ICTによる人手不足の完全な解消は保証されていませんが、その影響は大きいと予測されています。
自動化技術やロボット工学の進化により、人手を必要とする作業が機械化されることで、現場労働者の負担が軽減されるためです。
さらに、ICTを積極的に取り入れることにより、特にデジタルネイティブな若年層に対して建築業界の魅力を提供できます。
ICTの導入は、建築業界の古いイメージを刷新し、新たな人材の確保に貢献する可能性があります。
以下の記事では建設業DX化について詳しく解説していますので、こちらも合わせて参考にしてください。
建築業界の人手不足は労働環境の改善も重要
建築業界では、2025年問題という深刻な人手不足が差し迫っています。
国土交通省を先頭に、各企業が働きやすい環境を構築し、離職率を低下させることが課題です。
また、ICTなどの技術を導入し、若手の人材を雇用しやすい環境を作ることも急がれています。
まずは労働環境を見直すことで従業員の主体性を上げ、企業が一丸となって業務に取り組める環境を目指しましょう。
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