高齢者の増加にともない、介護業界の人手不足は深刻さを増すばかりです。
現在、介護施設に勤務している職員の中には、業務量が多くて仕事を継続するのが困難だと感じている人もいるでしょう。
そんな介護業界では、厚生労働省を筆頭にDX推進を図っています。
今回は、人手不足と業務過多に悩む介護施設のために、介護DXの導入と事例について解説していきます。
業務を効率化し、質の高い介護サービスを提供したいと考えている介護施設は、最後まで読み進めてみてください。
介護DXとは?
DXとはデジタルトランスフォーメーションの略で、介護業界のDXは、人手不足や高齢化社会の課題解決に貢献します。
AIによる介護記録やケアプラン作成、ウェアラブルデバイスによる見守り、オンライン介護サービスなど、多様な取り組みが進んでいます。
まずは、介護DXがどういうものか、具体的に解説していきます。
介護DXとは?
介護DXは、人の手による伝統的な介護業務のプロセスやサービスを根本から革新する取り組みを指します。
介護DXではデジタルデータを積極的に活用するので、効率的なデータ分析とコミュニケーションを可能にします。
介護施設では、日々の記録管理や業務スケジュールの共有、利用者の健康状態や嗜好の詳細な追跡など、多岐にわたる分野で記録が必要です。
そのデータを積極的にデジタル化することで、業務の効率化が期待できます。
介護DXを推進する理由
現代の介護業界は深刻な人手不足に直面しており、介護職員の労働環境改善の必要性が急務です。
介護DXの導入によって、日々の業務における記録をデジタル化し、情報共有の自動化が進みます。
その結果、職員一人ひとりの負担が大きく軽減されると期待されています。
介護DXの導入は業務効率の向上に留まらず、より質の高い介護サービスの提供を可能にし、結果として利用者の満足度の向上にもつながるでしょう。
例えば、デジタル化された記録システムにより、利用者一人ひとりのニーズに正確に対応することが可能になり、利用者の意図に配慮した介護の実現が期待されます。
介護DXの導入は、利用者だけでなく、介護職員や施設にとっても大きなメリットがあります。
介護DX導入の必要性については、以下の記事でも解説しています。
厚生労働省による介護DXの導入支援
厚生労働省は、介護業界のDX化を促進するために積極的な支援を行っています。
一例として、ICT導入支援事業をはじめ、補助金の提供などを通じて、介護施設がDXを導入しやすい環境を整備中です。
ICTは日本語では情報通信技術の意味を持ち、インターネットのような通信技術を業務に活用することを指します。
令和4年度の厚生労働省の補助金上限は、以下のようになっています。
事業規模 | 補助金上限 |
1~10人 | 100万円 |
11~20人 | 160万円 |
21~30人 | 200万円 |
31人~ | 260万円 |
(引用:厚生労働省「地域医療介護総合確保基金を利用したICT導入支援事業」)
厚生労働省の補助金は、中小規模の介護施設にとって、技術的な障壁や財政的な負担を軽減する上で大きな助けとなっています。
また、厚生労働省は、介護DXに関連する情報提供や啓発活動も積極的に行っており、業界全体のDX化への理解と取り組みを促進しています。
介護DXの導入事例7選
介護DXと聞いても、具体的に何を導入すればいいのか分からない介護施設もあるかもしれません。
今回は、介護DXの導入事例として以下の7選を紹介します。
- 介護ソフト
- タブレット
- グループウェア
- 動画撮影
- インカム
- 見守りセンサー
- 介護ロボット
それぞれ事例について、詳しく解説していきます。
介護ソフト
介護ソフトは、日々の記録管理をデジタル化するためのソフトウェアです。
介護ソフトの導入は、従来の紙ベースの記録から脱却し、データ入力の簡略化やリアルタイムでの情報共有を実現します。
また、勤怠管理や帳票出力もできるので、施設のペーパーレス化と業務効率化につながります。
介護ソフトの導入によって記録の整合性を高め、誤記入や情報の遅延を減少させ、介護施設全体の業務効率の向上につながるでしょう。
さらに、介護記録のデジタル化によって長期的なデータの蓄積と分析が可能となり、利用者一人ひとりに合わせたケアプランの策定にも役立ちます。
タブレット
現場でタブレットを活用することで、記録の即時更新や情報共有の迅速化を実現します。
タブレットの導入により、介護職員は利用者の側で直接データを記録し、勤務時間が異なる職員との情報共有が容易になります。
タブレットはいつでも情報を確認できるので、情報の鮮度と正確性が向上し、連絡漏れや介護サービスの質の向上につながるでしょう。
グループウェア
グループウェアは、職員間のスケジュール共有や情報伝達を効率化するツールです。
このシステムを通じて、職員は互いのシフトや重要なお知らせを容易に確認でき、業務上の誤解やコミュニケーションミスを削減します。
掲示板やチャット機能があるので、重要な連絡事項を共有したり履歴を把握したりが容易になります。
また、グループウェアは物理的に離れている職員間のコミュニケーションを促進し、チームとしての一体感を強化する効果も期待できるでしょう。
動画撮影
動画撮影は、新人教育の業務効率化に大きく役立ちます。
新人が入社する度に同じことを教えずに、あらかじめ撮影しておいた教育動画を取り入れることで既存の職員の負担軽減と新人の教育時間の短縮が可能です。
また、動画撮影は新しいツールを導入する際の教育コストの削減にもつながります。
新しいツールを導入する際は、習得スピードに個人差が生じてしまいますが、動画を用意しておくことでいつでも学習できるためです。
難しい編集は不要で、実際の介護風景やツールの解説を撮影するだけなので導入しやすい点もメリットです。
インカム
インカムは、職員間のコミュニケーションを円滑にし、緊急時の迅速な対応を支援します。通常は離れている職員を呼ぶ際に相手がいる場所まで出向いたり相手を探したりする必要がありました。
インカムを導入することで、離れている職員同士でも会話ができるようになり、緊急対応もスムーズに行えるようになります。
規模の大きい施設になればなるほど、インカムの恩恵は大きくなるでしょう。
見守りセンサー
見守りセンサーは、利用者の安全を確保すると同時に、職員の監視負担を軽減します。
介護施設の夜間は、最低限の職員で見守りをするので、頻繁に巡回していると緊急の対応が遅れてしまう可能性があります。
利用者のベッド付近に見守りセンサーを設置することで、夜間に利用者が動いたことを瞬時に把握し、転倒などのトラブルが発生する前に対応が可能です。
見守りセンサーは、職員の負担軽減だけでなく、利用者の安全を守るためにも優先して導入したいシステムです。
介護ロボット
介護ロボットは、利用者の身体的支援や移動支援を提供し、職員の肉体的な負担を軽減します。
具体的には、利用者の移乗支援や歩行補助などの負担の大きい作業を補助してくれます。
介護ロボットを導入することで、職員の腰痛や身体的な負担を軽減し、健康維持とモチベーションアップが可能です。
介護DXのメリット
介護DXの導入には、以下のようなメリットがあります。
- 介護職員の負担軽減
- 介護サービスの向上
- 職員の離職低減と人材不足解消
それぞれのメリットについて、詳しく解説していきます。
介護職員の負担軽減
介護DXの導入による最大のメリットは、介護職員の業務負担の大幅な軽減です。
介護DXによって、以下の業務の自動化と効率化が可能です。
- 日常の記録管理
- 職員間の情報共有
- 書類作成
- 介護補助
- ケアプランの作成
例えば、デジタル化された記録システムは、手書きの記録と比べて正確な情報入力を可能にし、データの即時共有によって職員間の連携を向上させます。
介護職員は煩雑な事務作業を効率化できるので、利用者との直接的な対話やケアにより多くの時間を割くことが可能です。
介護サービスの向上
介護DXは、利用者へのサービス品質を大きく向上させます。
デジタル技術を活用することで利用者一人ひとりのニーズや好み、健康状態を詳細に把握し、これに基づいた個別化されたケアプランを作成できるためです。
例えば、データ分析を通じて特定の利用者が特定のレクリエーションに積極的な傾向を把握した場合、その活動を増やすことで利用者の満足度を高めることが可能です。
また、デジタル化によるリアルタイムの情報共有は、利用者の緊急事態に対する迅速な対応を可能にし、全体的な介護サービスの質を向上させます。
職員の離職低減と人材不足解消
介護業界において長らく問題とされてきた高い離職率と人材不足も、介護DXによって改善が期待されています。
業務の自動化と効率化により、職員の過度なストレスが軽減され、より充実した職場環境が提供できるためです。
また、業務の効率化によって必要な職員数が減少するので、人材不足の問題も緩和されます。
さらに、介護施設が最新の技術を活用していることは、若い人材にとって魅力的な要因です。
介護DXを導入することでより多くの人々が介護業界に興味を持ち、業界全体の人材基盤が強化されることが期待されます。
以下の記事では介護業界の人材不足について、離職理由や対策を詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
介護DXの導入課題
メリットの大きい介護DXですが、まだ導入できていない施設が多いのが現状です。
介護DXを導入するためには、以下のような課題があります。
- 予算が必要
- DXやITの知識がない
- システムの選定が難しい
それぞれの課題を克服するために、コツを解説していきます。
予算が必要
介護DXを導入する際は、新しいサービスやシステムの購入、インフラのアップグレードや職員研修などの初期投資が必要です。
中小規模の介護施設では、これらの初期費用が大きな財政的負担となり、介護DXを導入できない要因になっているケースがあります。
特に、予算の制約は最新のITツールやシステムを導入する際の大きな障害となることが多く、施設によってはDX化そのものを見送ってしまう要因にもなります。
また、介護DX導入後の維持管理費用も考慮する必要があり、これらの費用をどのように捻出するかは、施設の運営者にとって重要な課題です。
厚生労働省や自治体の補助金を積極的に活用し、今後の人件費や採用コストの減少と介護DXの導入費用を十分考慮しながら検討しましょう。
DXやITの知識がない
多くの介護職員は、専門的なシステムやデジタル技術に関する知識が不足しています。
そのため、新しいシステムの導入や運用する際に、職員の理解と適応が難しくなることがあります。
特に、年配の職員や最新のシステムに慣れていない職員にとっては、新しい技術の習得そのものが大きな負担となるかもしれません。
介護DXを導入する際は、十分な研修プログラムやサポート体制を用意し、時間をかけて浸透させる意識が必要です。
介護DXにスムーズに適応するためには、継続的な教育とサポート体制の構築が必要です。
システムの選定が難しい
最新のデジタル技術とソフトウェア市場は、商品の多様化が進んでいます。
類似のシステムが数多く販売されているので、施設にとって最適なシステムをどのように選定すればいいか、決断が難しくなっています。
各製品の特徴や価格、互換性や拡張性、操作性など、検討すべき要素も複雑です。
専門的な知識を持つITコンサルタントの意見を求めることも一つの方法ですが、追加のコストが発生する可能性があります。
適切なシステム選定は、介護DXの成功において重要な要素になるので、専門家だけでなく、デモンストレーションを活用しながら職員と相談して使いやすいシステムを選定しましょう。
介護DX導入の注意点
介護DXを導入する際は、以下のような点に注意する必要があります。
- 課題を明確化する
- 運用時のルールを決める
- 職員の負担を確認する
介護DXの導入に失敗しないように、それぞれの注意点について解説していきます。
課題を明確化する
介護DXを導入する際は、現状の課題を正確に理解し、明確化することが重要です。
現状の課題が明確になっていないと、どのシステムを優先して導入すればいいのか判断できないためです。
課題を明確にするためには、既存の業務プロセスの詳細な分析、職員や利用者のニーズの特定を行います。
職員や利用者からのフィードバックを積極的に取り入れ、それぞれの視点からの課題を把握することも重要です。
目的に合ったシステムを選択することで、導入後の効果を最大限に高めることが可能になります。
運用時のルールを決める
DXシステムの導入にともない、職員がスムーズにシステムを使用できるような運用ルールの策定が必要です。
具体的には、データ入力の標準化や情報共有の手順、緊急時の対応マニュアルなどが含まれます。
運用ルールを策定する際は、職員の操作感や業務プロセスに合わせて柔軟に修正します。
また、ルールは定期的に見直しを行い、新たなニーズや技術の進展に応じて更新しましょう。
実用的な運用ルールは日々の業務の効率化だけでなく、誤用やデータ漏洩などのリスクを軽減します。
職員の負担を確認する
介護DXの導入は、職員の業務効率を向上させることを目的としていますが、導入後も職員の負担が増加しないよう注意が必要です。
新しいシステムの導入は、初期段階で職員に新たな学習負担や適応のストレスをもたらすことがあるためです。
職員の負担を確認するためには、導入後に定期的なアンケートや評価を行い、職員の負担やシステムの効果を把握する必要があります。
職員からの意見をまとめ、必要に応じてシステムの調整や追加研修を実施することで、職員の負担を軽減できます。
介護DXに関するよくある質問
介護DXの導入にあたって、以下の質問を多く見かけます。
- 介護DXのセミナーはあるか?
- 介護DXとICTは違うのか?
それぞれの質問内容に対する解説を行うので、疑問がある場合は参考にしてみてください。
介護DXのセミナーはあるか?
介護DXに関連するセミナーは数多く開催されています。
民間企業のセミナーもありますが、厚生労働省からも介護事業所におけるICTの導入・普及セミナーの動画を公開しています。
セミナーでは、最新のデジタル技術や業務改善の方法、成功事例の共有や介護DXの効果的な導入戦略に関する知識や情報を取得可能です。
介護DXに関するセミナーは、オンラインやオフライン問わずに、職員や施設の管理者が容易にアクセスできるようになっています。
介護DXとICTは違うのか?
介護DXは、ICTと呼ばれる情報通信技術を活用した業務改革のプロセスを指します。
DXは業務プロセスやサービスモデルをデジタル化して改善する広範な取り組みであり、ICTはDX化の手段の一つです。
具体的には、ICTはコンピュータシステム、ソフトウェアアプリケーション、通信技術などのデジタルツールを含みます。
介護DXはICT技術を活用して、業務プロセスを根本的に見直し、改善するための戦略的なアプローチです。
そのため、ICTはDXを実現するための重要な要素になり、DXはICTを活用して達成される目標や成果になります。
介護にDXを導入することで環境改善に繋がる
介護DXは、慢性的な人材不足が続く介護業界にとって重要な施策です。
これまで人の手で行っていた介助や記録などの業務をDX化することで、職員の負担軽減と業務効率化につながります。
介護DXを導入するためには、予算の捻出やシステムの選定が課題になりやすいので、補助金の申請や専門家の意見を聞きながら対応してみましょう。
介護施設がDXを導入することで、若手の人材獲得や職員の離職防止など、安定した施設運営にもつながります。
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