長年人手不足と言われ続けてきた介護業界ですが、その状況は深刻になる一方です。
介護施設の人手不足が深刻な理由には、利用者の増加だけではなく、介護士が辞めてしまうことも原因の1つです。
本記事では、介護業界の現状と介護士が辞めたいと思う原因、その対策について解説していきます。
介護業界の深刻な人手不足の現状と今後
まずは、介護業界の現状について解説していきます。
- 介護業界の人手不足がやばい
- 介護の今後はますます人手不足になる
それぞれを解説することで、介護業界の人手不足の現状を理解できるでしょう。
介護業界の人手不足がやばい
介護業界の人手不足は、深刻なレベルに達しています。
公益財団法人介護労働安定センターの「令和3年度介護労働実態調査」では、介護施設の63%が人手不足を感じていました。
2023年現在でも、多くの介護施設が必要な職員数を確保できずに苦労しており、結果として介護士一人当たりの業務量が増加中です。
残業の増加や休日出勤の要請などで介護士は十分な休息を取れない人が増え、結果的に介護士の離職になるという悪循環が生じています。
また、人手不足は介護サービスの質にも影響を与え、利用者一人ひとりに十分なケアが提供できないという問題も懸念されています。
介護の今後はますます人手不足になる
少子高齢化が加速する今後の日本では、介護士の人手不足はさらに深刻化すると予想されています。
厚生労働省の「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」では、2025年には約32万人、2040年には約69万人もの介護士が不足すると推測されています。
若者離れが進む地方では、より介護士が不足していくでしょう。
しかし、この増加する利用者に応えるための十分な介護人材が育っていないのが現状です。若年層の介護職への関心の低さや、現場の厳しい労働条件がこれらの問題を悪化させています。
(参照:厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」)
こちらの記事では介護業界の2025年問題として人手不足の原因と対策について解説していますので、ぜひ参考にしてください。
介護士が辞めたいと思うやばい施設の問題点
介護士の離職率が高い介護業界ですが、介護士が施設を辞めたいと思う施設には、以下のような問題点があります。
- 人間関係の問題
- 労働環境の問題
- 給与の問題
- 体力的な問題
- 仕事内容が過酷
- 介護施設の方針
それぞれの問題点について、詳しく解説していきます。
人間関係の問題
介護施設では、多忙なスケジュールと責任の大きさから、介護士がストレスを抱えやすい状況になっています。
その結果、施設内での介護士同士のコミュニケーション不足や意見の食い違い、上下関係の厳しさなどの人間関係の悪化を招いてしまいます。
介護業界に関わらず、職場の人間関係は長期的な仕事をするうえで重要な要素です。
その人間関係が悪化することで、仕事へのモチベーションが低下し、介護士は辞めたいと感じるようになってしまいます。
労働環境の問題
多くの介護施設では、人手不足を背景とした労働環境の問題が見られます。
介護士1人あたりの業務量の増加や長時間労働の常習化、適切な休息時間の不足などが、介護士の健康とモチベーションを損なう原因です。
いくら高齢者や介護が好きでも、介護士が担当できる業務には限界があります。
労働環境の悪化は介護士の心身の不調の原因になり、その結果仕事を辞めたいと考えてしまいます。
給与の問題
介護士の給与は一般的に低い傾向にあります。
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」(2021年)によると、介護職員の平均給料は25万600円となっています。
ボーナスは52万800円で、年収を試算すると352万8,000円でした。
国税庁の「民間給与実態統計調査」では、日本における給与所得者全体の平均年収が443万円なので、介護職員は年収が低いことが分かります。
特に、若手や新人介護士に対する低い給与が問題視されています。
体力的な問題
介護士は、定期的に利用者を起こしたり立たせたりするため、体力を要する仕事です。
体力的な負担の大きい仕事は、年齢を問わずに介護士が辞めたいと思う理由となります。
介護業界は女性が多い職場なので、体力的な負担は大きな課題となっています。
また、利用者を抱きかかえることが多いので、腰を痛めたり怪我をしやすいのも介護士にとっては懸念点です。
人手不足で利用者の移乗介助が増えることで、更に怪我のリスクが高くなるでしょう。
仕事内容が過酷
入社前に聞いていた仕事内容と実際の仕事内容で業務が異なる場合、施設への不信感と仕事への満足度が下がります。
介護の現場は利用者のケアの他にも事務作業や施設内の清掃など、多岐にわたる業務があり、スキルや適性に合わない業務を強いられることがあります。
人手不足によってそれぞれの業務量が増えてしまうと、心身共に疲れとストレスが蓄積してしまい、長期的に仕事を続けられなくなってしまうでしょう。
過酷な仕事内容は、介護業界以外でも離職の要因になるので、早急な対策が求められます。
介護施設の方針
介護施設ごとに異なる方針や運営スタイルがあり、これが介護士の価値観や職業観と合わないこともあります。
施設の方針に合わないと感じる介護士は、仕事に対するモチベーションを失いやすく、仕事を辞めたいと感じやすくもなります。
介護士は、入社前に施設の方針を確認し、ミスマッチのないように心がけましょう。
介護士を辞めない方がいい人の特徴
様々な理由から介護士を辞めたいと思う機会はありますが、以下のような介護士は辞めない方が結果的にいい可能性があります。
- 短期間の転職が多い介護士
- 長年勤めていて昇給している介護士
- 人間関係が良好な介護施設
それぞれの特徴について、詳しく解説していきます。
短期間の転職が多い介護士
短期間での転職が多い介護士は、施設を辞めたいと思っても考え直した方がいいかもしれません。
短期間での転職が続いてしまうと、自身に何かしらの問題があるのではないかと詮索されてしまうためです。
多くの介護施設では人手不足が問題になっていますが、短期離職されてしまうと採用コストや福利厚生の切り替えの労力が無駄になってしまいます。
そのため、施設側も採用を見送ってしまい、希望する施設への入社が難しくなってしまう可能性があります。
無理のない範囲で長く働くことで、介護士としての価値が上がり、希望する施設で働きやすくなるでしょう。
長年勤めていて昇給している介護士
長年にわたって同じ施設で勤め、昇給している介護士はそのまま勤務を続けるほうがメリットが大きいでしょう。
介護士としての経験に関わらず、新しい施設へ転職すると給与が下がってしまう可能性が高くなるためです。
長年務めている施設で定期的に昇給しているということは、施設から高い評価を受けている証拠です。
他の介護士や利用者とのコミュニケーションが円滑で、業務に慣れている介護士は貴重なので、重要な役割を任されることもあるでしょう。
施設を辞めたいと思ったら、まずは施設側にその理由を伝えて改善策がないか検討してからでも遅くはありません。
転職して人間関係や施設の方針が合わない可能性もあるので、現状の問題を解決できないか模索してみることをおすすめします。
人間関係が良好な介護施設
人間関係が良好な介護施設で働く介護士は、職場の雰囲気やチームワークに満足している傾向にあります。
施設を辞めたいと思う理由が給与やその他の労働条件にある場合、施設側と話し合いをしてみましょう。
良好な人間関係は、仕事のストレスを減らし、業務の効率を向上させます。
また、同僚や上司との良好な関係は、仕事のモチベーションを高め、仕事の充実感を与えてくれます。
転職して人間関係が悪い施設に入社してしまうと、短期離職の原因になりかねません。
給与が問題になっている場合は、長期的な昇給や賞与に関する規定を確認し、改めて転職が必要か判断してみましょう。
外国人労働者は介護業界の人手不足対策になるか
介護業界で増えているのが、外国人労働者です。
まだ外国人労働者を採用していない施設は、どのように採用したらいいか、どんな注意点があるか分かりません。
- 外国人労働者を採用する方法
- 外国人労働者を採用するメリット
- 外国人労働者を採用する際の注意点
施設の人手不足解消のために、上記について詳しく解説していきます。
外国人労働者を採用する方法
外国人労働者を介護施設に採用するには、人材紹介サービスを活用するのが一般的です。
外国人労働者を採用するためには、在留資格が必要になり、手続きも変わるためです。
外国人労働者が介護施設で働くためには、以下の在留資格のいずれかを取得します。
- 介護
- 特定技能
- 技能実習
- EPA介護福祉士
- 永住者や定住者などの身分系在留資格
在留資格によって従事できる業務や雇用形態が変わるので、初めて外国人労働者を採用する際は人材紹介サービスにサポートしてもらうと効率がいいでしょう。
外国人労働者を採用するメリット
外国人労働者を採用することで、以下のようなメリットを受けられます。
- 若い人材を確保しやすい
- 長期的に働いてくれる
まずは、人手不足の解消が外国人労働者を採用する最大のメリットです。
仕事を探している外国人労働者は年齢が20代〜40代と比較的若い傾向にあるので、介護の現場で活躍してくれます。
日本人よりも体が大きい人が多いので、体力があるのも外国人労働者のメリットです。
また、日本では外国人労働者の採用に消極的な企業が多いので、施設で長期的に働いてくれる可能性も高くなります。
離職率の高い介護業界では、長期的に働いてくれる人材は貴重です。
加えて、多様な文化的背景を持つ外国人労働者は、施設内での新たなアイデアやアプローチを生み出し、介護サービスの質の向上にもつながります。
外国人労働者が安心して働ける環境を提供することで、施設は介護士の人手不足解消ができるようになります。
外国人労働者を採用する際の注意点
外国人労働者を採用する際には、以下のような注意点もあります。
- 言葉の壁
- 文化の違い
- 人種差別
日本に滞在する外国人労働者は、全員が日本語を正しく理解しているわけではありません。
そのため、業務中に指示を間違えて受け取ってしまったり、利用者とのコミュニケーションができなかったりする可能性があります。
言葉と同様に、文化の違いにも理解が必要です。
施設内での食事の介助や排泄の介助では、文化の違いから介助の仕方を理解するまでに時間がかかることがあります。
相手の国や文化を否定せずに、施設のルールを正しく伝えるようにしましょう。
上記の問題を解消するために、言語研修や文化間コミュニケーションのトレーニングを施設内で実施することが重要です。
また、外国人労働者にも適切な労働条件を提供し、日本人の介護士と公平な扱いを保証することも必須です。
人種差別は、相手のアイデンティティを著しく傷つける可能性があります。
外国人労働者を採用する際は、円満なコミュニケーションがとれるような環境作りが大切です。
介護施設の人手不足対策
介護士の人手不足を解消するためには、以下のような対策も必要です。
- 職場環境の見直し
- 給与の見直し
- ユニットケアの導入
- 資格取得の後押し
- 多様な雇用形態と働き方の採用
- 広告と発信を積極的に行う
それぞれの対策を実施できるように、詳しく解説していきます。
職場環境の見直し
良好な職場環境は、介護士の仕事の質と満足度を大きく左右します。
具体的には、以下の点を見直しましょう。
- 適切な労働時間
- 十分な休憩と休日
- ストレス軽減のための定期的な改善
- 介護士同士のコミュニケーション
上記を見直すことで介護士が安心して働ける職場環境が整い、長期的な雇用を実現します。
給与の見直し
給与の見直しは、介護士を長く雇用し続けるために重要な要素です。
適正な給与や手当て、定期的な昇給は職員のモチベーションを高め、介護サービスの質を向上できます。
介護士としての仕事が好きで、人間関係が良好でも、生活が厳しくては長期的に働けません。
介護士の人手不足解消には、業務の難易度や責任に見合った給与や、成果に応じたインセンティブの導入が必要です。
ユニットケアの導入
ユニットケアは、入居する10名程度の利用者を1ユニットとし、専任の介護士がケアを担当する方法です。
ユニットケアを導入することで、介護士の負担を軽減しつつ、利用者一人ひとりに合わせた丁寧なケアを提供できます。
小規模のチームを形成することで、利用者の満足向上と介護士の負担軽減を両立できます。
ユニットケアを導入している介護施設は増加しているので、介護士の負担を軽減してより多くの介護士を採用したい施設は、ユニットケアの導入を検討してみましょう。
資格取得の後押し
資格取得の支援は、介護士のキャリアアップに直結します。
初任者研修や実務者研修を修了した介護士に介護福祉士の取得を支援することで、短期離職の防止と介護士のスキルアップを期待できるでしょう。
資格取得の後押しは、以下のような方法があります。
- 資格取得に関する費用の負担
- 試験勉強に必要な時間の確保
上記のような方法で介護士のスキルアップを後押しすることで、介護施設全体のサービス向上にもつながります。
多様な雇用形態と働き方の採用
施設が多様な雇用形態を採用することで、応募の窓口を広げることが可能です。
女性が多い介護士では、家庭環境や個別の理由で正社員や派遣社員、パートやアルバイトなど、希望する雇用形態が異なります。
雇用形態や勤務時間に柔軟な労働条件を提供することで、多様な人材を引きつけることが可能です。
一般企業では難しい時短勤務や曜日指定を採用することで、施設と介護士の双方にとってメリットになるでしょう。
介護業界の人手不足に対する効果的な採用方法については、こちらの記事を参考にしてください。
広告と発信を積極的に行う
積極的な広告の掲載と情報発信は、潜在的な介護士に介護施設の魅力を伝える重要なアプローチです。
インターネットやSNSが普及した現代では、ホームページや動画サービスで施設の情報発信を行うことが効果的です。
特に20代や30代の介護士は、求人検索や転職活動にもインターネットやSNSを活用しているので、新しい人材の雇用が期待できます。
人手不足解消に向けた介護DXの導入
介護業界が人手不足を解消するためには、DX(デジタルトランスフォーメーション)の導入が必要です。
しかし、多くの介護施設では介護士が不足している現在でもDX化が進んでいないのが現状です。
- 介護DXが進んでいない理由
- 介護DXの導入事例
上記について解説するので、DX導入を検討してみてください。
介護DXが進んでいない理由
介護DXの導入が遅れている主な理由は、以下の通りです。
- 既存の介護士のデジタル化への抵抗
- 施設の資金的な制約
- 技術的なノウハウの不足
介護DXを導入すると、書類作成や利用者のケアの負担を軽減できる反面、新しい技術を学習しなくてはいけません。
介護士は40代以降の年齢層が多いので、新しい技術を学習することに抵抗を感じているのがDXの導入が進んでいない理由の1つです。
また、中小規模の介護施設では、デジタル化に必要な資金が大きな負担となっています。
DX化の十分な予算が確保できずに、既存の介護方法を続けている点が今後の課題です。
また、介護士にはITやAIなどの最新技術に精通している人が少ないので、導入に必要なノウハウが不足していることもDXの導入が進んでいない理由になっています。
介護DXの導入事例
介護DXの導入事例をいくつか紹介します。
- 介護ソフト
- スマートフォンやタブレット
- ベッドセンサー
介護ソフトは、介護士の勤怠管理から介護記録や帳票の作成ができるソフトです。
紙の書類を減らせるのでペーパーレス化と介護士の入力時間の削減が期待できます。
スマートフォンやタブレットは、介護ソフトの共有やチャット機能によるコミュニケーションの促進、動画による研修や教育が可能です。
ベッドセンサーは、利用者のベッド付近に設置することで、夜間の動きを察知できます。
常に巡回せずに利用者の状況を把握できるので、夜勤者の負担軽減につながります。
以下の記事では、介護DXが必要な理由や介護DXのメリットやデメリットについて詳しく解説していますので、ぜひ合わせて参考にしてください。
まとめ
介護業界の人手不足は、深刻な状況になっています。
介護士が仕事を辞めたいと思う原因には、給与や労働条件に対する不満や人間関係の問題があります。
施設にとっては、既存の介護士が満足して働ける環境構築と、十分な介護士の確保が急務です。
人手不足を解消するためには、外国人労働者を採用したり介護DXを導入したりと、新しい対策が必要です。
長期的な介護サービスを提供するために、現状の改善に務めてみましょう。
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