介護業界は、少子高齢化による人材不足で、とても深刻な状況にあります。
高齢者が増える一方で介護職員になる人が少なくなれば、今後も人材不足は続いていくでしょう。
しかし、なんとなく「人材不足」と聞いているだけで、具体的な現状について理解していない人もいるのではないでしょうか。
本記事では、介護業界の現状について解説するので、ぜひ介護に関連する方は、参考にしてください。
介護施設は人材不足によって閉鎖が相次いでいる
介護業界の人材不足の現状として、介護施設の閉鎖状況について解説します。
介護業界全体に人手が足りていないということは、当然ながら介護施設への人員も足りていません。
そのため、現状の介護施設では、スタッフ一人あたりへの負担が多くのしかかっています。
しかし、小規模な介護施設では、どれだけスタッフが努力をしても、予算の関係で給与アップできないケースもあります。
労働状況の給与状況も改善されないために、スタッフへの負担が高くなり離職。さらには新規の雇用も難しく、慢性的な人手不足状態に陥る。このような悪循環によって、施設が閉鎖に追い込まれてしまいます。
2022年時点の介護施設の閉鎖状況
介護業界の人材不足の深刻化により、2022年には介護施設の閉鎖が過去最多となりました。
東京商工リサーチの調査によると、介護施設の倒産状況は、以下のようになっています。
19年 | 20年 | 21年 | 22年 | |
訪問介護事業 | 58件 | 56件 | 47件 | 50件 |
通所・短期入所介護事業 | 32件 | 38件 | 17件 | 69件 |
有料老人ホーム | 11件 | 10件 | 0件 | 12件 |
その他 | 10件 | 14件 | 13件 | 12件 |
上記のように、2022年時点で「訪問介護事業」と「通所・短期入所介護事業」の倒産件数は一気に多くなりました。
これらすべての原因が人材不足であるとは言い切れないものの、介護事業全体の運営が困難になっていることは確かでしょう。
介護業界の人材はどれほど不足しているのか?
じっさいに介護業界でどれほどの人手が不足しているのかを、2021年に厚生労働省が発表した「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」をもとに紹介していきます。
本資料を参考にすると、2025年には243万人、2040年には約280万人の介護職員数が必要とされています。
毎年の不足数で見ていくと、2025年までに毎年5万人規模の不足、2040年度までには毎年3万人が不足すると言われています。
都心部の人材不足は深刻な状況
介護業界全体のなかでも、都心部の人材不足はとくに深刻な状況です。
「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数(都道府県別)」をもとに、東京都と大阪府の介護職員の必要数を見てみると、以下のようになります。
都道府県 | 2025年 | 2040年 |
東京都 | 3万949人 | 7万2,338人 |
大阪府 | 2万4,420人 | 6万7,539人 |
つまり、都心部では上記の人数を確保しなければならないということです。
でなければ、今後も都心部の人手不足は続いていくでしょう。
介護事業所の人手不足の状況
介護労働安定センターの「令和4年度 介護労働実態調査結果」の資料から、介護事業所の人手不足の実態がわかりました。
職種別の人材不足の状況は、以下のとおりです。
大いに不足 | 不足 | やや不足 | 適当 | 過剰 | |
事業所全体 | 9.2% | 22.5% | 34.6% | 33.3% | 0.5% |
訪問介護員 | 27.9% | 31.0% | 24.6% | 16.3% | 0.2% |
サービス提供責任者 | 6.7% | 14.0% | 16.5% | 61.9% | 0.9% |
介護職員 | 11.9% | 24.2% | 33.2% | 29.6% | 1.1% |
看護職員 | 6.4% | 14.3% | 26.5% | 51.0% | 1.8% |
生活相談員 | 1.6% | 5.5% | 16.2% | 76.2% | 0.4% |
PT・OT・ST | 1.9% | 7.7% | 20.7% | 68.3% | 1.5% |
介護支援専門員 | 6.0% | 11.2% | 20.5% | 61.6% | 0.6% |
過去5年間の人手不足の推移についても見てみましょう。
事業所全体 | |||
大いに不足 | 不足 | やや不足 | |
平成30年 | 10.5% | 23.1% | 33.6% |
令和元年 | 10.2% | 21.9% | 33.2% |
令和2年 | 8.6% | 20.5% | 31.7% |
令和3年 | 8.5% | 21.5% | 33.0% |
令和4年 | 9.2% | 22.5% | 34.6% |
訪問介護員 | |||
大いに不足 | 不足 | やや不足 | |
平成30年 | 27.0% | 29.6% | 25.5% |
令和元年 | 26.5% | 29.2% | 25.5% |
令和2年 | 24.9% | 29.2% | 26.0% |
令和3年 | 25.1% | 29.4% | 26.1% |
令和4年 | 27.9% | 31.0% | 24.6% |
サービス提供責任者 | |||
大いに不足 | 不足 | やや不足 | |
平成30年 | 6.2% | 10.5% | 17.5% |
令和元年 | 5.5% | 12.0% | 16.1% |
令和2年 | 5.0% | 11.1% | 15.8% |
令和3年 | 5.7% | 12.1% | 15.8% |
令和4年 | 6.7% | 14.0% | 16.5% |
介護職員 | |||
大いに不足 | 不足 | やや不足 | |
平成30年 | 14.2% | 23.0% | 32.0% |
令和元年 | 13.5% | 22.2% | 34.0% |
令和2年 | 10.4% | 22.0% | 33.8% |
令和3年 | 10.2% | 21.2% | 33.0% |
令和4年 | 11.9% | 24.2% | 33.2% |
生活相談員 | |||
大いに不足 | 不足 | やや不足 | |
平成30年 | 2.2% | 5.7% | 15.2% |
令和元年 | 2.5% | 5.4% | 14.3% |
令和2年 | 1.2% | 5.1% | 15.9% |
令和3年 | 1.7% | 5.7% | 14.6% |
令和4年 | 1.6% | 5.5% | 16.2% |
介護支援専門員 | |||
大いに不足 | 不足 | やや不足 | |
平成30年 | 3.6% | 8.2% | 19.1% |
令和元年 | 3.8% | 8.4% | 18.2% |
令和2年 | 3.5% | 9.6% | 18.9% |
令和3年 | 4.5% | 10.1% | 18.3% |
令和4年 | 6.0% | 11.2% | 20.5% |
5年間の人手不足の推移を見ると、確実に人手不足が進んでいるのがわかります。
将来的には、より人手不足の事業所が増えていくと考えられます。
以下の記事でも介護業界の人手不足の現状について詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
介護業界の人材不足は高齢者の増加も大きく関係
介護業界の人材不足は、日本の少子高齢化が大きく関係しています。
人口に占める65歳以上の高齢者の割合である高齢化率は、2022年10月1日時点で29.0%となりました。
以下の表を見ると、平均的に20~30%で推移していますが、今後はさらに高齢者が増えると予想できます。
年 | 高齢化率 |
2005年 | 20.2% |
2010年 | 2300% |
2015年 | 26.6% |
2020年 | 28.6% |
2022年 | 29.0% |
また、16歳~64歳の生産年齢人口も減少しているため、今後はますます日本の産業全体での働き手不足が続いていくでしょう。
大きな問題となった2025年問題
少子高齢化で「2025年問題」を耳にしたことがある人は多いのではないでしょうか。
2025年問題とは、2025年に約800万人に及ぶ人口が75歳以上の高齢者になり、65歳以上の高齢者を含めると、国民の約30%が高齢者となる問題です。
高齢化が進めば、それだけ介護職員も増やさなければいけませんが、需要が多いのに対して働き手がいない状況であるため、今後も向き合っていかなければいけない問題とされています。
今後考えていくべき2040年問題
2025年問題の後には、2040年問題が来ると言われています。
2040年問題も、2025年問題と同様に、高齢者人口が増える問題です。
2040年代には、第二次ベビーブームに生まれた「団塊ジュニア世代」が、65歳~70歳の高齢者になるのです。
この頃には、高齢者人口は35%以上になると予想されています。
となれば、経済を支える現役世代の働き手は少なくなり、日本全体で労働力不足がより深刻化します。
介護職においては、2040年までに約69万人増やす必要があると言われています。
介護人材の獲得も困難になっている
介護業界の人材不足に関する問題は、採用の難しさにもあります。
介護業界は「仕事がきつい」「給与が低い」というイメージがついてしまっているので、若い人材が集まりにくいのです。
実際に2018年時点では、介護労働者の21.6%が60歳以上というデータがでています。
高齢の介護労働者が増えていくと、体力的なハードルも感じてしまい、サービスの質の担保が難しくなります。
その体力的な問題から離職率がさらに高くなり、介護業界の人手不足はより深刻化が進んでしまいます。
介護業界に対するリアルな意見
介護業界が人材不足のためにおこなわなければならないのは、離職率の防止だけではありません。
今後を担う働き手を確保するための採用も積極的に行う必要があります。
しかし、介護の仕事に対する世の中の意見は、厳しいものばかりです。
長崎県が過去に行った介護業界に関するイメージのアンケートでは、以下のような意見が挙がりました。
- 体力的・精神的にきつそう…43.9%
- 給与など待遇が悪そう…19.2%
上記のように、介護業界に対して、世の中はネガティブなイメージをもっています。
また、実際に介護職を退職した人のなかには「職員同士の人間関係や職場に関連する人との人間関係がストレス」といった意見もあります。
つまり、介護業界の人材不足を解消するには、これらのネガティブなイメージを払拭しなければならないのです。
介護業界を辞めたいと思う原因や対策については、以下の記事で詳しく解説しています。
介護業界の人材不足に対する取り組み
介護業界の人材不足に対して、介護という仕事に対して、負担を感じる人が多いということがわかりました。
負担も大きい上に給与も決して高くないため、人材が定着しなかったり採用できなかったりすることは、当然のことと言えます。
では、介護業界が今後のために何をすべきかと言うと、労働環境の改善や制度の見直しです。
実際に、昨今の介護業界では、以下のような取り組みが進められています。
- IT・システム導入
- ユニットケアの導入
- 外国人介護人材の受け入れ
- 介護福祉士資格取得の推奨
- 介護職のイメージアップ
- 求人サイトの利用
- 求人広告の出稿
システムの導入で業務の負担を減らしたり、多くの人が介護業界に興味を持つような取り組みが進められているのです。
しかし、これらの取り組みを行っているのは、一部の介護事業所のみです。
予算の関係でこれらの取り組みを進められない介護事業所もあるため、今後はどのように予算を抑えながら採用を進めていくかを考えていかなければいけません。
以下の記事では介護業界の人手不足解消のヒントや、人手不足解消に役立つDX化について解説していますので、こちらも合わせて参考にしてください。
今!介護業界に求められる人材とは?
採用や人材不足で困っている介護事業所向けに、「今、どのような人材を採用すべきか?」について解説します。
昨今では、無料で出稿できる求人サービスもあるので、求人を出す際の参考にしてください。
ただし、前提として、労働環境をある程度整えていることが重要です。
どれだけ欲しい人材を獲得しても、労働環境や職場環境が整っていなければ、採用できても離職してしまいます。
あくまで以下を参考にしながら、社内環境の整備も整えていきましょう。
「介護福祉士有資格者」などの資格保持者
介護事業所の人手不足が顕著で、今すぐに活躍人材が欲しい事業所であれば、資格保持者を採用していきましょう。
資格保持者であれば、介護の基礎知識や技術など、多くの利用者のサポートができます。
もし、現状で資格を持っていない場合は、介護事業所が資格を取得するためのサポートや制度を作ってあげると良いです。
このような制度があれば、介護職員の仕事に対するモチベーションがあがります。
体力に自信のある健康な人
介護事業所の種類によっては、24時間体制で見守りを行わなければいけないケースもあります。
早番や夜勤などの不規則な生活で体調を崩してしまう人も多いです。
そのため、このような労働環境に耐えられる体力のある人を見つけると良いでしょう。
介護事業所としては、不規則勤務ではなく、希望のシフトを選べるような形にしておくと良いです。
長期的に働ける人
介護業界の人材不足を解消するためには、やはり長期的に働いてくれる人がベストです。
短期離職をされてしまっては、人材不足は解消されません。
そのために、働きやすい環境を整えることが大事です。
今後は外国人の受け入れも活発になっていくと予想されるので、外国人が働きやすい環境も整えておきましょう。
介護業界の人材不足はとても深刻
介護業界の人材不足は、とても深刻な状況にあります。
しかし、人材不足を解消するには、事業所一つひとつの努力が必要です。
働きやすい環境を用意したり、DX化などのITツールの導入を検討したり、事業所の努力で変わることは必ずあります。
求人を出して求職者の母数を増やすことも大事ですが、それだけでは根本の解決になりません。
定着率を高めるためにも、まずは事業所の見直しから始めてみてはいかがでしょうか。
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