近年、職員不足で運営が困難になっている介護施設が増加しています。
介護施設で人材不足が続いている背景には、様々な原因が潜んでいました。
本記事では、介護業界の人材不足の原因と、人手不足解消のヒントを徹底解説していきます。
人材不足で施設運営が困難な事業所は、参考にしてみてください。
介護業界は人材不足に陥っている
現在の介護業界は、深刻な人材不足に直面しています。
- 介護現場の人材不足の現状
- 深刻な人手不足となっている地域
- 介護スタイルの変化
それぞれの詳細に触れることで、介護業界の現状を把握できるでしょう。
介護現場の人材不足の現状
高齢化社会が加速している日本では、介護サービスへの需要が急速に増加しています。
しかし、この需要に応えるための十分な人材が確保できていないのが現実です。
介護職員は離職率が高く、新しい人材の採用も困難になっているためです。
厚生労働省の「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」では、介護職員の必要数は以下のように記載されています。
- 2023年度:約233万人
- 2025年度:約243万人
- 2040年度:約280万人
2025年度までは、毎年5万人規模で介護職員が不足すると推測されています。
以降は高齢者の人数が減少し、2040年度には毎年3万人の不足になるとの見通しです。
介護現場での人材不足は、介護サービスの質の低下や職員の過重労働を引き起こす原因になるので、大きな課題となっています。
(参照:厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」)
介護業界の人手不足の現状については、以下の記事でも詳しく解説しています。
深刻な人材不足となっている地域
介護施設の人材不足は全国的な問題ですが、特に都市部を中心に職員不足が深刻化しています。
厚生労働省が2022年にまとめた「第165回社会保障審議会介護給付費分科会」の資料では、以下のように都市部での有効求人倍率が増加しています。
- 東京都:6.97倍
- 愛知県:6.49倍
- 奈良県、富山県:5.19倍
- 大阪府、岐阜県:5.01倍
- 埼玉県:4.62倍
一方で、有効求人倍率が低い地域は以下の通りです。
- 高知県:2.26倍
- 山梨県:2.40倍
- 宮崎県:2.44倍
- 大分県:2.45倍
- 沖縄県:2.46倍
有効求人倍率の格差からも分かる通り、都市部での介護職員不足が深刻になっています。
(参照:厚生労働省「第165回社会保障審議会介護給付費分科会」)
介護スタイルの変化
従来の日本では、高齢者の介護は家族がするのが一般的でした。
しかし、核家族化や女性の社会進出が進み、家族が介護を担当できる家庭は減少する一方です。
両親と離れて暮らしている場合は、介護施設を頼りにしなくてはいけません。
民間の介護施設は増加しましたが、その数を上回る高齢者の需要があるので、現在では入居待ちを強いられている高齢者も増えています。
介護施設が増えても介護職員の数は増加しないので、多くの施設で介護職員が不足しているのが現状です。
介護施設で職員が人手不足になる原因
介護施設で職員が人手不足になる原因は、以下の通りです。
- 職員の採用が難しい
- 職員の離職率が高い
- 業界問わずに労働者が減少している
- 人間関係のトラブル
- 仕事を評価してもらえない
- 職員の給与が低い
介護職員を十分に確保するために、それぞれの理由について解説していきます。
職員の採用が難しい
介護施設での人材不足の最大の原因は、職員の採用が難しいことです。
施設単位ではなく、介護業界全体での人材獲得競争が激しくなっているので求人を出しても応募者が少ないのが現状です。
介護施設の求人は、他業界の求人と比較しても労働条件が厳しいため、応募者が少なくなっています。
更に、介護職員は他の求人と比べて給与水準が低く、仕事内容がハードという労働条件の問題があるので、従事しようと考える人材が減少しています。
職員の離職率が高い
介護業界の人材不足には、離職率の高さも関係しています。
介護業界の離職率は15.3%ほどで、人材不足で業務量が増加している施設から介護職員が離職してしまうのは大きな問題になっています。
介護職員を確保したい施設は、独自の働き方やメリットを提示して介護士にアピールすることが重要です。
業界問わずに労働者が減少している
日本の人口構造の変化により、介護業界だけでなく、多くの業界で労働者が減少しています。
少子高齢化が進む中で、介護が必要な高齢者は増加していますが、働き手となる人材が減少しているのが現状です。
限りある労働人口の中から介護業界に興味を持ってもらうためには、国や自治体を含めた介護業界全体の構造改革が必要でしょう。
人間関係のトラブル
介護業界に限らず、職場の人間関係のトラブルは職員の離職の一因となります。
介護職員は利用者を含めて多くの人と接する必要があり、場合によっては介護対象者からの暴言や暴力を受けることもあります。
また、職員同士の介護方針や考え方の違いから、摩擦が生じて思わぬトラブルに発展してしまうこともあるでしょう。
介護施設では、上記のような人間関係によるストレスが原因で離職してしまう職員がいる場合もあります。
仕事を評価してもらえない
介護の仕事は重要性にも関わらず、社会的な評価が低いと感じる職員が多いのが問題です。
仕事の内容に対する評価や給与が低いことが、職員のモチベーション低下や離職につながっています。
極論ですが、毎日5人の介護を担当する職員と3人しか担当しない職員の昇給や賞与が一定では、モチベーションが下がってしまうのは当然です。
施設では、職員の仕事を見える化して、正当な評価ができる環境構築が大きな課題になっています。
職員の給与が低い
公益財団法人介護労働安定センターの「令和4年度 介護労働実態調査」では、介護職員の平均月収は214,501円でした。
国税庁が発表している「令和4年分 民間給与実態統計調査」の平均年収458万円と比較しても、介護職員の給与は低いことが分かります。
重労働や排せつ介助など、負担が大きい業務に対しての給与の低さが、人材不足の大きな要因です。
低賃金での労働は、職員の生活を圧迫し、介護業界への転職を敬遠させる原因にもなっています。
(参照:公益財団法人 介護労働安定センター「令和4年度介護労働実態調査」)
以下の記事では介護業界を辞めたいと思う原因や対策について解説していますので、ぜひ参考にしてください。
介護人材確保に向けた厚生労働省の取り組み
厚生労働省では、介護人材を確保するために、以下のような取り組みをしています。
- 介護に関する入門的研修
- 人材育成等に取り組む介護事業者の認証評価制度
- 介護現場における多様な働き方導入モデル事業
- 介護の仕事の魅力発信
- 介護人材確保地域戦略会議を開催
それぞれの取り組みについて、詳しく解説していきます。
介護に関する入門的研修
厚生労働省は、介護分野への未経験者の参入を促進するために、介護に関する入門的研修を実施しています。
具体的には、以下のような研修を行っています。
- 介護に関する基礎知識
- 介護の基本
- 認知症の理解
- 基本的な介護の方法
- 障害の理解
- 介護における安全確保
入門的研修は、1日、3日程度、6日程度と研修日程が異なり、研修内容も変わるので注意しましょう。
この入門的研修では、介護業界に興味を持つ人々に介護の基本を知る機会を提供し、介護の仕事への不安を払拭することが目的です。
この取り組みにより、多様な背景を持つ人材の介護業界への流入を期待できます。
(参照:厚生労働省「入門的研修の概要」)
人材育成等に取り組む介護事業者の認証評価制度
人材育成等に取り組む介護事業者の認証評価制度は、介護職員の人材育成や就労環境の改善に取り組む介護事業者を評価し、運営に要する経費を支援する制度です。
この制度によって、以下のような結果が期待できます。
- 働きやすい環境の整備を進め、業界全体のレベルアップとボトムアップを推進
- 介護職を志す方の参入や、介護職員の離職防止、定着を促進
労働環境や処遇の改善では、以下のような項目が評価の対象です。
- 明確な給与体系の導入
- 休暇取得、育児介護との両立支援
- 業務省力化への取組
新規採用者の育成体制の評価項目は、以下の通りです。
- 新規採用者育成計画の策定、研修の実施
- OJT指導者、エルダー等へ研修実施
キャリアパスと人材育成では、以下のような項目が評価の対象です。
- キャリアパス制度の導入
- 資格取得に対する支援
その他、以下のような項目も評価対象になります。
- 事業所の運営方針の公表、周知
- 多様な人材の職場環境の構築
- サービスの質の向上に向けた取組
上記のような項目を評価することで、職員が長く勤務できる介護施設を増やすのが目的です。
(参照:厚生労働省「人材育成等に取り組む介護事業者の認証評価制度について」)
介護現場における多様な働き方導入モデル事業
介護現場における多様な働き方導入モデル事業では、リーダー的な介護職員の育成と多様な働き方や柔軟な勤務形態の導入を目指しています。
国が自治体へ交付金を発行し、自治体がモデルとなる介護事業所を選定します。
選定された介護事業所は、以下のステップで改善活動を行います。
- 求人活動改善
- 機能分化推進
- 人材育成・能力開発
- リーダーシップ強化
- 働き方改革
このモデル事業は、効率的な事業運営方法を実践的に研究し、その成果を全国に展開することを目的としています。
その結果、全国の介護事業所が多くの介護職員を確保できるようになるでしょう。
(参照:厚生労働省「介護現場における多様な働き方導入モデル事業」)
介護の仕事の魅力発信
厚生労働省は、介護の仕事の魅力を広く発信するために、以下のような取り組みを行っています。
- 介護の日(11月11日)・福祉人材確保対策重点期間
- 小・中・高校生等若者向けの福祉・介護のしごとの普及啓発
介護に関心を集めるために介護の日や対策期間を設けて、介護業界の周知を図っています。
また、若者にはパンフレットを作成したり特設ホームページを開設したりして情報発信を続けています。
(参照:厚生労働省「介護人材確保に向けた取組」)
介護人材確保地域戦略会議を開催
介護人材の確保に向けて、都道府県や都道府県福祉人材センターなど地域の関係主体が協力して、介護人材確保地域戦略会議を開催しています。
介護人材確保地域戦略会議では、多様な施策を連携させながら、実効性の高い取り組みを進めることが目標とされています。
(参照:厚生労働省「介護人材確保地域戦略会議」)
介護業界が人手不足を解決するための対策
介護業界が人手不足を解消するためには、以下のような対策が必要です。
- 介護士の魅力を発信する
- 資格取得と研修を充実する
- 多様な働き方を推奨する
- 公正な評価制度を導入する
- ユニットケアを導入する
- 潜在介護士を再雇用する
それぞれの対策について、詳しく解説していきます。
介護士の魅力を発信する
介護業界のイメージ向上は、新たな人材を採用するために重要です。
そのためには、介護士の魅力ややりがいを積極的に発信し、介護士の社会的な評価を高めることが求められます。
具体的には、以下のような対策が必要です。
- メディアやイベントを活用したPR活動
- SNSによる施設の日常の発信
- 動画やホームページで介護現場のポジティブな側面を紹介
多様な情報発信を続けることで、他業界からの人材採用を強化できるでしょう。
資格取得と研修を充実する
介護職員のスキルアップとキャリア形成を支援するためには、資格取得の支援や継続的な研修プログラムの提供が重要です。
具体的には、以下のような施策があります。
- 未資格者の初任者研修取得を支援
- 介護福祉士試験の費用負担
- ケアマネジャー試験の費用負担
- 動画による定期的な介護研修
上記のような取り組みを続けることで、職員は専門性を高められ、長期的なキャリア形成が可能になります。
多様な働き方を推奨する
柔軟な勤務形態を推奨することで、さまざまなライフスタイルを持つ人々が介護業界で働けるようになります。
以下のような雇用形態を取り入れてみましょう。
- 正社員、派遣社員、パート、アルバイトの活用
- 午前中のみや夜勤のみなど、希望に合わせた勤務時間の採用
- ダブルワークの推奨
上記を採用することで、家庭と仕事の両立を図りたい人材の確保が期待できます。
また、定年者を積極的に採用することで、人材不足を解消できるようになるでしょう。
公正な評価制度を導入する
介護職員の努力と成果を公正に評価し、適切な昇給や昇進の機会を提供することで、職員のモチベーション向上につながります。
日々、高いモチベーションで仕事に専念することで、離職率の低下にもつながるでしょう。
そのためには、以下のような環境を整える必要があります。
- パフォーマンスベースの評価制度
- 定期的な職員との面談
介護の仕事は数値化しにくい業務が多いので、できるだけ公正な評価ができる制度を考えましょう。
ユニットケアを導入する
ユニットケアは、職員と利用者の双方にメリットがある介護方法です。
利用者を一定の人数でグループ分けし、それぞれのグループに専属の介護士を選定することで、利用者一人ひとりに寄り添った介護を提供できるためです。
職員も、担当する利用者が限定できるので小さな変化に気づいたり、趣味嗜好に合わせた会話やケアをしたりできます。
その結果、職員の負担を軽減できるので、離職率の低下につながるでしょう。
その証拠に、現在ではユニットケアを導入している介護施設が増加しています。
潜在介護士を再雇用する
一度介護業界を離れた人材を再雇用することも、人材不足の解消に重要な施策です。
潜在介護士は、未経験者と比べて介護スキルを持っているので、即戦力が期待できるためです。
介護業界を離れた理由は人それぞれなので、その問題を解決できることを伝え、安心して働ける環境を提供しましょう。
復職支援プログラムやキャリア復帰のための研修などの活用も、潜在介護士の再雇用に必要です。
介護業界の人手不足対策や効果的な採用手法については、以下の記事でも詳しく解説しています。
介護業界の人材不足を解決する介護DX
少子高齢化が進んでいる日本では、多くの企業がDXと呼ばれるデジタル技術の活用を採用しています。
これまで人が担当していた業務をデジタル化することで、効果的な人材活用と業務効率化が両立できるためです。
介護業界におけるDXの課題と、おすすめのアイテムについて解説していきます。
介護DXと施設の課題
介護DXは、人材不足が深刻な介護業界において急速に注目を集めています。
従来の介護にデジタル技術とデータ活用を組み合わせることで、介護サービスの質を向上させる効果があるためです。
しかし、介護施設がDXを実施する際には以下のような課題が存在します。
- ITスキルの不足
- DXに関するノウハウの欠如
- 予算の捻出
上記を理由に、多くの施設が依然としてアナログな作業を行っているのが現状です。
高額なソフトやサービスを導入しても、職員が使いこなせない可能性を懸念する施設もあります。
介護DXでおすすめのアイテム
介護DXを導入する際は、以下のようなアイテムを優先して導入するのがおすすめです。
- マッスルスーツ
- 介護ロボット
- 見守りセンサー
マッスルスーツは、着用することで体の負担を軽減してくれるスーツです。
介護の現場では、利用者の移乗などで体に大きな負担がかかります。
そんな業務をする際に、マッスルスーツを着用することで、体に負担をかけずに業務をこなせるようになります。
また、入浴の際に介護ロボットを導入するのも効果的です。
入浴も職員にとっては負担の大きい業務なので、ロボットによる介助を導入すると負担を軽減し、離職率低下につながるでしょう。
夜間や日中のお昼寝の際は、見守りセンサーを導入すると職員の巡回回数を削減できます。
介護の現場では、急なトイレ介助や事務作業などで定期的な巡回が難しい場面が出てきます。
その際に、見守りセンサーを導入しておくことで、限りある人材を有効活用できるでしょう。
以下の記事では、介護業界のDX導入が必要な理由や、導入を進めるポイントについて解説していますので、こちらも合わせて参考にしてください。
まとめ
介護業界では、深刻な人材不足が続いています。
特に、東京都などの都市部では、有効求人倍率が著しく増加しています。
厚生労働省を筆頭に、さまざまな施策を行っていますが、現状では十分な効果が出ていません。
限りある人材を離職で失わないためには、資格取得や定期的な研修など、教育に力を入れたりユニットケアやDX化など職員の負担軽減につながる対策が必要です。
施設内の制度や環境を見直して、実践できる対策があれば積極的に採用してみましょう。
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