「リスキリング」という言葉を「知っている」「聞いたことがある」という方は多いでしょう。
言葉を知っていても、すでに取り組んでいる企業は未だ少数派といえます。
産業能率大学総合研究所が調査を行った、下記の円グラフをご覧ください。
出典:リスキリングへの取り組み状況(産業能率大学総合研究所)2021年調査報告書
https://www.hj.sanno.ac.jp/cp/research-report/2021/09/30-01.html
2021年の時点でリスキリングに「すでに取り組んでいる」企業は11.5%でした。
リスキリングの注目度に比較すると、取り組みが遅れている印象です。
そこで今回は、取り組み方、リスキリングが企業にもたらすメリットやデメリットについて解説します。
変化が激しい現代において、スキルの更新は必要不可欠な要素です。
本記事がリスキリング導入に悩んでいる経営者の方の参考になれば幸いです。
リスキリングとは
リスキリングとは、労働者が新しい技術や業界の動向に適応し、将来の仕事やキャリアに対応するために必要なスキルを身につけることを指します。
具体的には「新しい技術やツールの習得」「異なる業種や業務に対応するためのトレーニング」「教育プログラムへの参加」などが考えられます。
リスキリングは急速な技術革新や経済の浮き沈み、職業の転換、需要の変動に対応するために大変重要な要素です。
リスキリングが注目されている背景
リスキリングという言葉を一度は聞いたことがある方が多いのではないでしょうか。
世界的にリスキリングに注目が集まったきっかけは、2020年の世界経済フォーラム(ダボス会議)の宣言です。
宣言とは「2030年までに世界で10億人をリスキリングする」という内容でした。
また「第4次産業革命により、数年で8,000万件の仕事が消失する一方で9,700万件の新たな仕事が生まれる」とも。
日本でも2022年「リスキリング」は「ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされるなど、注目を集めています。(※参照:「現代用語の基礎知識」選ユーキャン新語・流行語大賞2022年https://www.jiyu.co.jp/singo/index.php?eid=00039)
リスキリングが注目されている背景には、急激な技術の進化や経済の変化があります。
背景を詳細に挙げると、以下の6つの要因が考えられるでしょう。
- テクノロジーの急激な進化
- DX(デジタルトランスフォーメーション)
- グローバルな競争の激化
- 労働力の長寿命化と働き方の変化
- 社会的責任と雇用機会の創出
企業や、政府、労働市場においてリスキリングは、重要視されています。
リスキリングは、組織や個人が変化に適応し、持続的な成長を実現するための鍵とされているのです。
リスキングが企業に必要な理由については、以下の記事でも詳しく解説しています。
リカレント教育との違い
リスキリングとリカレント教育は、どちらも新しいスキルを習得し、変化する労働市場に対応するための教育プロセスを指す言葉です。
しかし、それぞれに異なる点や側面があります。
詳しく解説しましょう。
◆リスキリング
従業員がすでに持っているスキルを更新・強化し、新しい仕事や技術に対応するためのスキルを身につけるプロセスをリスキリングといいます。
通常、組織がさまざまな変化に対応するために、従業員に対して行います。
例えば、新しいテクノロジーの導入やデジタル化に伴いスキルを提供するなどです。
リスキリングは業界や、組織内での変化に焦点を当てて行なう学習を指します。
◆リカレント教育
リカレント教育とは、個々の社員が一生涯に渡り絶えず新しい知識やスキルを習得し、自己成長を促進するための継続的な学習プロセスです。
特定の仕事や技術だけではなく、広範囲に包括的なスキルや知識を育成するのが目的です。
リカレント教育は、大学や専門学校、オンラインプラットフォームなどさまざまな形態で提供され、個人が自発的に学び続けることを指します。
つまり、リスキリングは特定の変化やニーズに対応して社員のスキルをアップデートするプロセス。
リカレント教育は、個々の労働者が一生涯に渡って学び続け、成長し続けるための学習プロセスのことです。
アンラーニングとの違い
リスキリングとアンラーニングは、どちらも新しい知識やスキルを習得するための手段を指す言葉です。
しかし、その目的と方法には、大きな違いがあります。
それぞれの違いを詳しく解説します。
◆リスキリング
リスキリングは、新しい知識を学び既存のスキルに追加するプロセスです。
主に技術の進化や業界の変化に適応するために行われます。
◆アンラーニング
アンラーニングは、既存の知識や習慣を見直し、捨て去るプロセスを指します。
過去の学びや経験が、現在の状況に適応していない場合は、見直し変更する必要が生じます。
アンラーニングは柔軟性と適応力を向上させ、古いアイディアや方法にとらわれずに新しいものを受け入れるためのプロセスです。
つまり、リスキリングは新しいスキルや知識を得るのに対して、アンラーニングは古い知識やスキルを捨て、新しい環境や技術に適応するための土台作りが目的になります。
リスキリングの導入方法
リスキリングの必要性を理解していても、「具体的にどうすればいいのか?」とお悩みの経営者の方が多い印象です。
リスキリングを導入するには、計画的かつ段階的なステップが必要です。
この章ではリスキリングを導入する前の準備段階から、最終的に学習を習慣化させるまでについて詳しく解説します。
自社の戦略に基づいたスキル設定
リスキリングを導入するときは、自社の戦略に基づいて「どのようなスキルを習得するのか」詳しく設定する必要があります。
新たなスキルを身につけても活用できるものでなければ、残念ながら時間の浪費と言わざるを得ません。
リスキリングを導入する前に、以下のステップに沿って習得するスキルを設定してください。
1.ビジョンと目的の明確化
リスキリングの導入には、最初に経営陣がビジョンと目的を明確に定義する必要があります。
どのような方向に企業を進め、どのような結果を期待するのか。
スキルの設定に対する戦略を構築する出発点といえます。
2.テクノロジーと業界の動向を把握
リスキリングの対象となるスキルは、急速に変化するテクノロジーや業界の動向に密接に関連しています。
業界のトレンドや競合他社の動きを把握し、変化に適応するためのスキルを明確に定義する必要があります。
3.現状のスキルマップの評価
現状のスキルマップを冷静に評価し、どの領域で新しいスキルが必要か把握してください。
従業員のフィードバックや、実務に基づいたデータ分析が役立ちます。
4.優先順位付けと計画の策定
どのようなスキルを重点的に学習するべきか、優先順位をつけて計画を策定してください。
計画的なリスキリングは、限られたリソースを活用し、最大の効果を生むために重要です。
お伝えした手順に従ってどのようなスキルを習得するか、方向を定めるのが重要です。
自社の戦略を明確にして、ブレないスキル設定を行ないましょう。
教育プログラムの作成
リスキリングを導入するなら、組織に適した効果的な教育プログラムの作成は欠かせません。
最も大切なのは、従業員が学んだ知識やスキルを業務で活用できる、実践に則したトレーニングやプログラムを作成することです。
画一的な教育プログラムよりも、従業員のポジションや業務に特化した学習を提供するのが重要です。
自社に合わせた教育プログラムは、従業員個々のニーズに応えやすくより効果的なリスキリングを可能にするでしょう。
単なる講義形式だけでなく、以下のようなプログラムも有効です。
- ディスカッション
- グループワーク
- ワークショップ
- オンライン学習
さまざまな方法を組み合わせて、柔軟な教育プログラムを作成してください。
実践機会の提供
リスキリングでの学習においては、実践機会の提供をセットで考えなくてはなりません。
実践機会を提供することで、従業員は学んだ知識やスキルを実際の業務に応用し、定着させられます。
理論だけではなく、実際の作業やプロジェクトを通じてスキルを磨けるので、効果的な学習が可能になります。
学びを実践するチャンスが与えられれば、従業員は問題解決力を向上できます。
なぜなら、実務を通じてしか得られない経験があり、問題が発生した場合に柔軟な対応力こそが必要になるからです。
新しいスキルを磨く際は、ミスも避けられない可能性があります。
ミスを許容し学びに変える文化を社内に定着できれば、従業員は積極的に新しいことに挑戦しやすくなります。
失敗を恐れず学んだことを実践できるよう、経営陣はさまざま機会を提供してください。
学習の習慣化
学習の習慣化はリスキリングにおいて、とても重要です。
製造業は急速に変化しており、新しい技術やプロセスが頻繫に導入されています。
学習の習慣化によって従業員は継続的かつ自発的に学び、変化に対応する柔軟性を身につけられるでしょう。
技術の進化や業界の変化に伴って、必要なスキルも変わっていきます。
学習が習慣化されていれば、従業員は自らのスキルを進化させ、最新の業務に対応できるようになるのです。
学習習慣が組織全体に浸透すると、組織文化として定着します。
従業員の学びを大切にし、成長を重視する組織文化があれば人材の定着やモチベーションアップにつながります。
習慣化とは単なる一時的なトレーニングではなく、継続的な学びのプロセス確立を意味します。
経営者の方は学習の習慣化を奨励し、学びを組織文化の一部として位置づけて、企業の成長と競争力の向上を促進してください。
以下の記事では、リスキングで学ぶべきスキルや資格について詳しく解説していますので、ぜひ合わせて参考にしてください。
リスキリングがもたらす企業へのメリット
リスキリングは、企業にとって単なる投資ではなく、将来にわたる持続的な競争力を築くための重要な手段です。
従業員のスキル向上が企業の成長と効率向上につながり、市場変化への適応力を高めるのです。
リスキリングが企業にもたらす具体的なメリットを、例を挙げて紹介します。
業務効率化
リスキリングが企業にもたらすメリットの一つ目は「業務効率」です。
リスキリングによって、従業員が最新の技術やツールの使い方を習得すると、生産プロセスにおいてより効率的な手法や自動化が導入できます。
具体的には、IoT技術を学んだ従業員が生産ラインの監視や制御をリアルタイムで行い、生産効率を向上させた例があります。
新しいアイデアの創出
リスキリングが企業にもたらすメリットの二つめは「新しいアイディアの創出」です。
リスキリングによって、新しいアイディアやイノベーションが生まれる可能性があります。
例えば、新たな学習でデザインを学んだチームが、製品開発プロセスに参加して革新的な製品を生み出しました。
新しいスキルの習得は、従業員の創造性や柔軟性を高めます。
採用コストの削減
リスキリングが企業にもたらすメリットの三つ目は「採用コストの削減」です。
リスキリングによって、既存の従業員が新たなスキルを身につければ外部から新たな人材を採用する必要がありません。
例えば、従業員にデジタルマーケティングのスキルを教育し、マーケティング部門の強化を図るのはいかがでしょうか。
外部からマーケティングの専門家を雇用するコストが削減できます。
さまざまな業務に柔軟に対応できる従業員が社内に増えれば、採用コストの削減につながります。
既存業務を継承したまま成長が可能
リスキリングを導入すると、既存業務を続けながらさらに成長できるようになります。
これが、リスキリングが企業にもたらすメリットの四つ目です。
リスキリングによって、従業員が幅広いスキルを身につけると同じ人材が異なる業務に携われるようになります。
企業は人員を柔軟に配置しながら、成長が可能になります。
また、幅広いスキルを身につけた従業員が多数在籍していれば、企業は新しい業務分野への進出も容易です。
例えば、製造業の技術者がデータ分析スキルを身につけ、品質管理や生産プロセスの最適化など新たな業務領域に活かせるようになった事例があります。
培ってきたスキルを活かして既存の業務を続けながら、新たに習得したスキルで企業も人も成長できるのです。
リスキリング導入時の注意点とデメリット
リスキリングには、メリットばかりではありません。
どのようなことにも、メリットがあればデメリットがあります。
リスキリングはデメリットを理解し、導入前に対策しておく必要があります。
また、リスキリング導入に抵抗感を示す社員がいる点も認識しておいてください。
リスキリング導入時の注意点も併せてお伝えします。
取り組みやすい環境の作成
従業員が積極的にリスキリングに取り組むためには、まず環境の整備が必要です。
リスキリングは、日常の業務と並行して学習に取り組まなければなりません。
適切なスケジュール管理が必要です。
業務に支障をきたさない範囲で、週や月の計画を立て従業員が負担なく学習に集中できる環境を整えましょう。
途中で学習が止まってしまったり、疑問が解決できなかったりした場合には、フィードバックやサポートを提供する仕組みも大切です。
学習は楽しく続けるほど効果を発揮します。
さまざまな教育プログラムを通じて学ぶ機会を提供し、社員同士で情報を共有するコミュニケーションを奨励すれば、学習環境が活気づくでしょう。
社員のモチベーション維持
リスキリングには、社員のモチベーション維持が課題です。
「なぜこの技術を学ぶのか?」リスキリングの目的を明確にし、段階的にクリアするべき目標を設定してください。
学習の成果に対して適切な報酬や認定制度を導入すれば、モチベーション維持に効果的でしょう。
リスキリングが職務遂行やキャリアにどれほど重要であるかを明示する必要があります。
学習意欲を高め、自己成長の積極的な姿勢を奨励します。
社員のモチベーションを維持するには、参加意欲を高める全社的な取り組みや雰囲気作りが必要です。
導入の負担とコスト問題
リスキリングの導入には、多くのメリットがありますが同時にデメリットや負担があるのも事実です。
特に製造業の経営者の方には、導入に際しての負担やコストが問題となるのではないでしょうか。
ここからは、リスキリング導入の負担やコスト問題の具体例や解決策を紹介します。
◆経済的な不確実性
リスキリングの導入には、将来の経済状況や市場の不確実性を考慮しなければなりません。
経済の不安定さや市場の変動が予測困難な場合、リスキリングプログラムの実施には慎重な検討が必要です。
解決策:経済的な不確実性に対応するために、リスキリングプログラムは段階的に実施しましょう。
柔軟性を持った計画の策定が必要です。
リスキリングの予算を慎重に見直し、不確実性に備える予備的な手段や緊急時の対応策を用意するのも大切です。
◆労働力の一時的不足
従業員がトレーニングに参加する際には、生産ラインが中断してしまう可能性があります。
一時的な労働力不足により、生産性低下が発生するリスクがあります。
解決策:トレーニングプログラムを段階的に実施し、業務への影響を最小限に抑えましょう。
従業員と連携し、トレーニングのスケジュールや内容を調整することで、業務の中断や生産性の低下を抑えられます。
◆トレーニングコスト
新しいスキルや知識の習得を目的としたトレーニングプログラムの導入には、資材の調達、外部トレーナーの給与、オンラインプラットフォームの利用料などのコストがかかります。
リスキリングには、莫大な費用がかかる可能性があります。
解決策:トレーニングコストを抑えるために、オンライン学習プラットフォームの選定や、従業員同士で共有できる内部トレーニングプログラムの導入を検討してください。
外部トレーナーよりも内部の専門家を活用すれば、コストを抑えつつ高品質なトレーニング提供が可能になります。
以下の記事では、リスキングの導入事例についてやリスキングを成功させるコツについて詳しく解説していますので、ぜひ合わせてご覧ください。
リスキリングがもたらす未来のキャリア形成への影響
今回は、企業におけるリスキリング導入について詳しくお伝えしました。
リスキリングは従業員のキャリア形成や、企業の競争力向上に寄与するとして注目が集まっています。
リスキリングがもたらすメリットは従業員の能力向上だけではありません。
新たなスキルや知識を習得することで、生産性の向上や業務の効率化まで期待できるのです。
一方、リスキリングにはいくつかデメリットがあります。
リスキリング導入には、費用や時間がかかる点。
従業員が新たなスキルを習得する過程で、一時的に生産性が低下する場合もあります。
しかし、これらのデメリットはリスキリングの効果を考えれば十分に補えるものであり、長期的な投資と捉えるべきでしょう。
デメリットを知っておけば、対策を講じておけますね。
リスキリングは従業員のキャリア形成に重要な役割を果たし、企業の競争力向上のためにも欠かせない要素です。
リスキリングのメリットとデメリットを把握し、適切な方法で取り組んでください。
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