製造業界ではDX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性が高まっています。
「DX導入に関心はあるが、具体的な進め方がわからない」
「DXには費用もかかるので失敗したくない」
このようにお悩みの経営者の方が多いのが現実ではないでしょうか。
DXを導入すれば、生産性向上や効率化が期待できる一方、導入には課題や困難があるのも事実です。
そこで今回は、製造業におけるDX導入の方法、メリットや課題点について詳しく解説します。
さまざまな視点から、製造業におけるDXの重要性とその導入方法について考察していきます。
製造業におけるDX
製造業においては、DXの導入が盛んに推奨されています。
「実際のところDXとは何だろうか?」
「デジタル化と同じだろう」
このように考えている経営者の方も多数いらっしゃいます。
この章では、改めてDXの定義や重要性についてお伝えします。
DX導入の第一歩として、ぜひ正確な知識を得ていただければ幸いです。
DXとは?
DXとはデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略です。
デジタル技術を活用して、働き方やビジネスモデルを進化させることを指します。
そもそもDXの概念は抽象的ですから、企業や業種によって捉え方が違っている場合もしばしば。
総務省では、DX(デジタルトランスフォーメーション)を下記のように定義しています。
Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)
企業が外部エコシステム(顧客、市場)の劇的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること
※出典:総務省|令和3年版 情報通信白書|デジタル・トランスフォーメーションの定義 (soumu.go.jp)
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd112210.html
DXには「クラウドコンピューティング」「ビッグデータ分析」「AI」「IoT」などさまざまな要素が含まれます。
これらの技術を組み合わせ、経営や事業を革新的に変え、競争力を向上させるのがDXです。
製造業における、人手不足や生産性向上などの課題解決の決定打としてDXが期待されています。
とはいえ、残念ながら製造業においてDXの導入は遅れています。
総務省が公表した、下記のデータをご覧ください。
※出典:令和3年版 情報通信白書(総務省)デジタル・トランスフォーメーションの取組状況(日本)図表1-2-4-2
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd112420.html
このデータから、製造業でDX導入に取り組んでいる企業は25%前後でした。
大企業ではデジタル化への取り組みが進んでいる反面、中小企業では進んでいないのも見て取れます。
世界的に見ても、日本企業ではDXへの取り組みが進んでいない現状があります。
同じく総務省が公表した、下記のデータをご覧ください。
※出典:令和3年版 情報通信白書(総務省)デジタル・トランスフォーメーションに関連する取組の実施状況
図表1-2-4-9
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd112440.html
米国、ドイツと比較しても日本の取り組みは遅れているのが見て取れます。
DXに関連する取り組みを「実施していない」と回答した企業が12.5%あり、他国に比べて突出している点が懸念材料です。
DXの導入を推進すべき時期がきていると言えるでしょう。
製造業におけるDXの重要性
製造業ではDXの重要性が強調されています。
なぜなら、DXは企業の競争力を向上させ、持続可能な成長を実現する上で必要不可欠な要素だからです。
DX導入を推進すれば、5つのメリットがあります。
- 生産プロセスの効率向上
- 品質管理の向上
- サプライチェーンの最適化
- 顧客との連携強化
- イノベーションと新規事業創出
経営者は積極的にDXを取り入れ、業界の変革に後れをとらない姿勢が求められています。
製造業にDXを導入するメリット
製造業でDXを導入すると、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
DXを導入する際は、目的を明確にする必要があります。
得られるメリットから、DX導入を検討するのもいいでしょう。
DXを導入するメリットを詳しくお伝えします。
生産効率の向上
DXがもたらす「生産効率の向上」は、製造業にとって大きなメリットです。
DX導入によって生産プロセスの自動化が可能になります。
例えば、ロボットや自動制御システムを導入すればどうでしょう。
単純で反復的な作業から人手を開放し、作業効率を向上させられます。
結果として、作業時間の短縮やヒューマンエラーの削減ができます。
DXを活用してデータ予測分析、需要予測、在庫を一括管理すれば生産スケジューリングの最適化にも役立つでしょう。
在庫の過剰を防ぎ、生産の安定性確保に寄与します。
結果として、無駄な作業や在庫管理コストを削減できるのではないでしょうか。
お伝えしたDX導入のメリットは、ほんの一部です。
生産効率の向上は、製造業にとってDXを導入する最大の魅力となるでしょう。
経営者の方はDXを戦略的に活用し、企業の競争力を向上させる手段として注目すべきです。
製造業での生産性を向上させる戦略については、こちらの記事も参考にしてください。
人手不足解消と脱属人化
DX導入は「人手不足解消」と「脱属人化」においてもメリットがあります。
DXによって単純作業が自動化できれば、従業員はより高度な業務に専念できるようになります。
従業員はより専門的な役割に集中できるため、人手不足解消に寄与します。
また、ロボットや自動化によって危険な作業や体力を使う作業を肩代わりさせるのもいいでしょう。
従業員の労働条件が向上し、作業環境が安全で快適になります。
安心・安全な環境で働けば、従業員のモチベーションアップが期待できます。
属人化とは、特定の従業員にしか業務のやり方がわかからない常態のことです。
属人化は業務の停滞、知識や技術が継承されないなど多くのリスクがあります。
DXを通じて属人化から脱却する方法は、業務のマニュアル化、移管、アウトソーシング、自動化など、さまざまな方法があります。
限られた人材でより高度な業務を効率的にこなすために、DX導入は有効な手段です。
製造業の人手不足の原因や企業に求められることについては、こちらの記事を参考にしてください。
情報の可視化とデータ活用
リアルタイムで収集した貴重なデータを分析し、活用するのにもDXが必要です。
DX導入によって情報を可視化したり、データを有効活用したりできれば、特に経営者にとってメリットが大きいと言えるでしょう。
DXを導入すれば、製造プロセス全体の情報をリアルタイムで可視化できます。
例えば、センサーやIoTディバイスを活用して、生産ラインからデータを集約し、経営者が直感的に把握できるようなシステムを構築したらどうでしょう。
生産の進捗、効率、品質などの情報を一元的に把握しやすくなります。
経営者はデータを把握することで、迅速かつ正確な意思決定が可能になります。
DXを通じて得られるデータは、新たなビジネスモデルや付加価値の創造にも活用可能です。
経営判断において最も大切なのは、正確な情報やリアルタイムのデータです。
DXを導入すれば、可視化して活用可能な生きたデータが入手できるでしょう。
製造業でのデータ活用事例についてはこちらの記事で解説していますので、合わせて参考にしてください。
顧客満足度の向上と競争優位性の獲得
製造業におけるDX導入は「顧客満足度の向上」にも寄与します。
例えば、DXによって得られたデータを活用し、顧客の好みやニーズ、市場傾向を詳細に理解できたらどうでしょう。
顧客に合わせて製品をカスタマイズが可能になります。
顧客が求める製品を提供できれば、顧客満足度を向上させライバルとの差別化を図り、競争優位性の獲得手段になります。
さらに、サービスの効率化も可能です。
DXによってデータを分析し、適切なタイミングで保守や修理などの顧客サポートを提供できるようになります。
DXを活用して顧客の立場に立ったアプローチを実現し満足度向上を図れば、競争上の優位性を獲得できる企業になるでしょう。
DXを進めるための課題とその解決策
DX導入が急務であると認識していても、さまざまな課題から導入が進んでいない企業が多数あります。
具体的にはどのような課題があり、どのように解決すればいいのか解説します。
急速な市場変化と経済環境への対応
DXを推進するための課題として、急激な市場変化があります。
つまり、製造業を取り巻く経済環境や、顧客のニーズや市場の変化があまりにも速いため、DXプロジェクトが柔軟に対応できないといった課題です。
解決策:変化に柔軟に対応するために、DX推進はアジャイルな開発手法(実装とテストを反復しつつ開発を進めていく手法)を採用し、プロジェクトを小さなステップに分割して推進するのが良いでしょう。
この手法なら、変更が必要な場合は素早く対応可能です。
リスク管理には、DX推進プロジェクトの進捗を定期的に評価する必要があります。
問題が発生した場合には迅速に対応する仕組みを構築しておきましょう。
データ利活用の障壁と最適なIT投資
DXは大量のデータを取扱うため、データの質やセキュリティ確保に問題が発生する場合があります。
特に個人情報や機密情報を取扱う際は、細心の注意が必要です。
もちろん法律や規制の順守は必須です。
また、DXには十分な資金が必要であり、導入に伴うコストが課題になります。
資金確保がDX導入の障壁となる可能性を考慮しておきましょう。
解決策:データの質とセキュリティ確保には十分な対策が必要です。
DX導入の際は、ルールを策定しデータの整合性を確保してください。
セキュリティに関しては、最新のセキュリティプログラムの導入、従業員の教育、セキュリティ監査を通じて潜在的なリスクに対処する必要があるでしょう。
DX導入には、適切なIT投資が必要です。
つまり、IT投資には明確な戦略と計画が必要不可欠と言えます。
投資リターンの追跡や評価を行ない、プロジェクトの優先順位を決定しましょう。
外部からの資金調達や助成金の活用なども併せて検討するのもおすすめです。
DX適応人材の採用・育成とツール選定の難易度
DXを進めるにあたり、必要なスキルを持つ人材不足が課題です。
組織には新たなスキルセットを求められ、新たな人材の採用、教育やトレーニングが必要になるでしょう。
また、従来の業務プロセスや考え方からの脱却が必要です。
DX推進に対する従業員の抵抗や変化への適応が難しい場合があります。
組織文化の変革は時間とエネルギーを要し、経営層のリーダーシップが不足していると難しさが増す傾向にあります。
解決策:従業員のスキル合アップにはトレーニングや教育プログラムが必要です。
社内の研修だけでなく、外部から専門家のトレーニングを導入し新しい技術やツールに対応できるスキルを従業員に提供しましょう。
組織文化の変革には、リーダーシップが必要になります。
経営陣はDX導入のビジョンを明確に示し、従業員に対して変革の重要性を説明することが求められます。
コミュニケーションを強化し、従業員がDX推進プロジェクトに参加しやすい環境を整えてください。
DXの成功事例や報酬制度をつうじて変革に対するポジティブなインセンティブを提供するのも有効です。
DXを成功させるポイントと進め方
DXを導入したからといって、すべての問題が解決するわけではありません。
新しい技術や、テクノロジーを使って活かすのは人です。
DXを成功させるには、いくつかポイントがあります。
高額な資金を投入したのに「結局DX導入は失敗してしまった」という事態は、何としても避けなければなりません。
ぜひ、DXを成功させるポイントを押さえて導入を進めてください。
経営主導でDXを推進する
DX推進には、経営者のリーダーシップが不可欠です。
具体的な例を挙げて解説しましょう。
例えば、製造プロセスの自動化、IoTの活用、データ分析の導入などDXの導入には長期的な計画や優先順位の策定が必要になります。
経営者はDXをどのように推進するかビジョンを確立し、組織全体で共有する必要があります。
つまり、経営者は変革を推進するリーダーとしての役割を認識する必要があるのです。
さらに、経営者はDXに必要な予算を確保したり、人的資源を効果的に活用したりすることが求められます。
具体的には新技術への投資、スキル向上のためのトレーニングプログラムの導入、専門知識のあるスタッフの雇用などが必要でしょう。
経営者主導でDXを推進する際、最も重要なのは柔軟性と適応力です。
変化する市場や新技術に適応するためには、経営陣は素早い行動と調整ができるリーダーシップを発揮するべきです。
現場主導ではなく、経営側主導でDXを推進するのが成功のポイントです。
ダイナミックケイパビリティを意識する
ダイナミックケイパビリティ(Dynamic Capability)とは、組織が変化する環境に適応し、持続的に競争力を維持する能力を指します。
組織が変化と不確実性に対処するために必要なのがダイナミックケイパビリティの概念です。
ダイナミックケイパビリティには、以下の5つの要素が含まれます。
- 感知と適応
- リソースの再構築
- イノベーションと創造性
- 意思決定の速さ
- リーダーシップの資質
ダイナミックケイパビリティは、変化を敏感に察知し、変革を促進するための柔軟性や創造性を組織にもたらします。
昨今の競争激化や急速な技術進化といった状況において、ダイナミックケイパビリティは組織の存続や成長に寄与します。
つまり、ダイナミックケイパビリティはDXを推進する上で必要不可欠な概念なのです。
具体例を挙げながら、ダイナミックケイパビリティがDX推進にどのように貢献するか解説しましょう。
製造企業がデジタル製造プロセスを導入した例です。
製造企業ではセンサーやIoTを活用して、生産ライン全体をモニタリングできるようにしました。
生産データのリアルタイム分析により、リソースの効率的な再構築が可能となり、生産性が向上したのです。
この事例では、伝統的な製造業からデジタル企業への転換を図るうえで、ダイナミックケイパビリティの考え方とDX推進が結びついています。
経営陣がリーダーシップを発揮して、組織文化を改革しデジタル変革を成し遂げたのです。
ダイナミックケイパビリティは、DXを成功させるために必要な要素を包括的に含んでいます。
組織が変化に対応し、デジタル環境で競争力を獲得するのに意識したい概念です。
現場理解からビジネスモデル変革までの進め方
DXの導入は、綿密な計画と段階的なアプローチが重要です。
以下に具体的な進め方を挙げて解説します。
1.現場理解と評価
現場の課題や生産工程を理解し、DXの適応領域を特定してください。
例えば、IoTセンサーを使用して、生産ラインの機器の稼働状況をリアルタイムでモニタリングする、などがあります。
また、現場の作業者から意見や提案を収集するのも一案です。
改善したい問題点を特定するのに役立ちます。
2.デジタル技術の選定
DXに使用する技術やプラットフォームを選定します。
例えば、スマート機器を統合できるIoTプラットフォームを選定してデータを集約したり、
クラウド製造管理ソリューションを導入したりするなどがあります。
3.データ統合と分析
生産データやビジネスデータを統合し、基盤を整えます。
異なるデータソースからの情報を統合するには、データウェアハウスの構築が必要です。
具体的には、過去の清算データを使用して需要予測を庫内、生産計画を最適化するなどが可能です。
4.プロセスの自動化
重要な業務プロセスを自動化し、生産効率を向上させましょう。
生産ラインでの繰り返し作業を自動化し、作業効率の向上を図ります。
5.組織文化の改革
DXを受け入れる組織文化を構築し、従業員の積極的な関与を促進します。
従業員にデジタルツールの使い方や新しい工程に関するトレーニングを提供してください。
また、従業員からのアイディアを奨励し、技術革新への取り組みを支援しましょう。
6.ビジネスモデル変革
新しいデジタル技術を活用したビジネスモデルを導入します。
製品のモニタリングやメンテナンスを含む製品ライフサイクル全体にサービスを提供する新しいビジネスモデルを構築します。
製品から得られるデータを活用し、新たな価値を生み出していきましょう。
上記の手順を通じて、製造業ではDXを段階的かつ効果的に導入できます。
重要なのはDXの導入を技術だけではなく、組織文化やビジネスモデルにも結び付ける取り組みです。
以下の記事では製造業でのDX導入事例について詳しく解説していますので、こちらも合わせて参考にしてください。
DXによって製造業の未来を変えよう
今回は、製造業におけるDX導入について詳しくお伝えしました。
製造業の人手不足やコスト削減などの問題を解決するのに、DX導入が効果的です。
ただし、やみくもにDXを推進しても問題解決には至りません。
DXのメリットと併せて課題も認識し、解決策を知っておきましょう。
DXの導入は、計画的に進め柔軟に状況を受け入れる姿勢が大切です。
製造業の明るい未来のために、DX導入を積極的に進めましょう。
コメント