製造業において生産性向上は最優先事項です。
競争激化や市場の変動に適応し、効率的かつ持続的な成長を遂げるために生産性向上が鍵となります。
とはいえ、実際のところ生産性向上の戦略にお悩みの経営者が多いのではないでしょうか。
今回は生産性向上に成功した事例を通じてその戦略を紐解きます。
適切な技術の導入やデジタル化、スキルの向上などさまざまな部分での戦略的アプローチがあります。
今回紹介した事例を自社の生産性向上に役立てて頂ければ幸いです。
製造業における生産性とは
製造業における生産性とは、製品やサービスを最小の時間と労力で生み出す能力を指します。
つまり、製品を作るために使った労働力や材料に対して、生み出された成果が大きいほど生産性が高いということになります。
製造業で生産性が重要なのは、より迅速で効率的に製品を生み出せば、コストを削減し利益を最大化できるからです。
生産性向上によって利益を得るためには、新しい技術や効率的なプロセスの導入、労働スキル向上など各企業において具体的に取り組む必要があります。
生産性向上に向けた取り組みは、製造業にとって見過ごせない重要な課題です。
以下の記事では製造業における労働生産性の現状について詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
生産性向上が求められる背景
製造業において生産性向上が求められているのは、企業の利益を増すためばかりではありません。
その背景には「労働力不足」と「世界各国の生産性」という2つのキーワードがあります。
それぞれについて、詳しく解説しましょう。
労働力不足
労働力不足とはつまり「人手不足」のことです。
総務省統計局の発表した、日本の人口ピラミッドをご覧ください。
出典:統計局 図2我が国の人口ピラミッド(2021年10月1日)
https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2021np/index.html
労働力として期待される50代以下の人口が男女とも減少傾向にあるのがおわかりいただけるでしょう。
将来的に、製造業のみならずあらゆる業種で労働力不足になるのは明らかです。
製造業において労働力不足は生産ラインの遅れや、注文処理に支障をきたし企業の成長や収益に悪影響をあたえます。
少ない労働力でより効率的に製品を生産するために、生産性向上は早急に取り組むべき課題と言えるでしょう。
国際的な生産性の比較
「国際的な生産性の比較」は各国の生産性を比較し、その結果をもとに生産性向上の必要性や方向性を検討するために重要な指標です。
日本の生産性を見ていきましょう。
【1時間当たりの労働生産性】
◆2020年日本の時間当たり労働生産性は、49.5ドル(5,086円)
◆OEDC加盟国38カ国中23位
国際的な生産性の比較によって他国と比較してより高い生産性を実現すれば、企業や国の競争力が向上します。
世界中で市場が結びついている現代、国際的な競争が激化しています。
つまり、生産性向上によって製品やサービスを迅速に提供し、市場のグローバル化に対応することが必要になっています。
さらに、生産性向上は資源の有効利用やエネルギーの効率的な利用を促進し、環境負荷を軽減できます。
環境に配慮した企業であれば国際的な評価や規制にも対応できます。
製造業において生産性向上を意識した経営は、もはや必須といえるでしょう。
生産性を向上させる具体的な手法
生産性を向上させるには、どのような方法を採ればいいのかお悩みの経営者も多いでしょう。
そこで、ここからは生産性を向上させる具体的な手法を4つお伝えします。
- 業務プロセスの改善
- データによる可視化
- デジタルツールやシステムの導入
- 設備の最適化
一つずつ解説します。
業務プロセスの改善
生産性を向上させる具体的な手法として「業務プロセスの改善」は第一歩です。
日々の作業で生じている課題や無駄を特定し、詳細に分析しましょう。
例えば、生産ラインでの待ち時間や、過剰在庫などについての分析は必須です。
分析の結果をもとに、改善の余地がある部分を特定し新しい効率的なプロセスへと改善しましょう。
新しいプロセスの導入には、従業員の提案を活用することも大切です。
業務の処理過程を見直すだけでなく、新技術やツールの導入も検討してください。
自動化やデジタル化によってさらに業務が効率化できる場合があります。
これにより、従業員はより価値のある業務に専念できるでしょう。
製造業における業務改善の具体的な実践方法については、以下の記事を参考にしてください。
データによる可視化
生産性を向上させる具体的な手法として「データによる可視化」は重要な要素です。
はじめに、生産ラインや業務プロセスで徹底的にデータを収集しましょう。
生産数量、作業時間、在庫などあらゆるデータを集めます。
収集したデータを分析し、生産プロセスの傾向や問題点を明らかにします。
データの可視化は客観的、具体的なため、あらゆる改善点を発見できます。
収集したデータをグラフなどで可視化するツールの導入もおすすめです。
リアルタイムでデータの可視化をおこなえば、従業員は一目で生産状況や課題を把握でき、迅速な対応が可能になります。
以下の記事ではデータの「見える化」によって生産性をアップさせる方法やメリットについて具体的に解説していますので、こちらもぜひ参考にしてください。
デジタルツールやシステムの導入
生産性を向上させる具体的な手法として「デジタルツールやシステムの導入」は不可欠です。
例えば、自動化された機械やロボットを導入し単純作業や重労働を任せて、従業員は高度な作業に集中できるようになるでしょう。
生産管理システムを導入すれば、生産計画や在庫管理をリアルタイムで把握でき、生産の効率が向上します。
製造業ではチームや部門間のコミュニケーションを円滑にするために、プロジェクト管理ツールやコミュニケーションツールの導入もおすすめです。
これにより情報共有と従業員同士の連携が可能になるでしょう。
近年、さまざまなデジタルツールやシステムが開発されています。
これらを取り入れることで、生産性向上に役立ち自社の競争力を高め成長を促進できます。
設備の最適化
生産性を向上させる具体的な手法として「設備の最適化」をしましょう。
製造設備や機械のエネルギー効率を向上させることで、コスト削減と環境への配慮が両立します。
例えば、最新のロボット導入などが含まれます。
製造スピードが上がるだけでなく不良品の発生数が減れば、大幅な作業効率化や廃棄量削減の一助になるでしょう。
また、設備の故障や停止を予防するために予防保全システムの導入も効果的です。
センサーやモニタリングシステムを活用すれば、設備の状態をリアルタイムで監視できます。
工場や施設のレイアウトの最適化も検討しましょう。
レイアウトを最適化するだけで、物流や作業の効率が向上します。
生産ラインの配置や材料の配置を改めて見直し無駄な移動や待ち時間の削減を目指してください。
お伝えした4つの手法は生産性向上に大きく寄与します。
具体的な手法として、ぜひ取り入れてください。
成功事例から学ぶ生産性の向上
4つの具体的な手法をお伝えしたところで、次は実例を見ていきましょう。
生産性向上に成功した事例を5つ紹介します。
水産食料品製造業(青森県)
ホタテを加工する食品製造会社は、青森県にあります。
主力商品であるホタテフライの需要が伸び続けていたにもかかわらず、供給量が追い付きませんでした。
そこで生産性を上げるべく専門家を招き「製造機械の清掃工程」「製造工程の自動化」の2点の課題の解決に取り組みました。
「製造機械の清掃工程」では、洗浄機械の導入により毎日1時間かけていた洗浄作業を半分の30分に短縮することに成功。
衛生状態を知る指標の一つ「ふき取り検査」では、以前より良好な結果が出ているそうです。
「製造工程の自動化」では、ホタテフライのパン粉付けを自動化。
従来の作業と同等以上の出来栄えを目指し、ロボットメーカーだけでなく原材料メーカーとも合同会議を重ね、従業員も含めた試食会も実施しました。
生産性向上に取り組んだ結果、生産量は198.8%アップし、対象工程で30時間の短縮に成功しました。
適切な設備機器導入によって、高品質を損なうことなく生産性向上に成功した事例です。
食品製造業(千葉県)
千葉県に工場のある食品製造会社は、パスタソースが主力商品です。
売上が急激に拡大しており、生産能力が追い付いていない状況です。
現状では取引先の求める衛生管理や生産性を維持できない、と危機感をもっているということでした。
出荷や製造を1名の従業員が担っており、人材育成まで手が回らない課題があります。
専門家のアドバイスにより、客観的に作業の流れを整理し最小化するところからスタート。
コンサルティング初期の段階で改善のための視点と方法を従業員と共有しました。
方法としては、ビデオ撮影による客観的定量評価、コンサルティングと従業員による相互提案。
まずは「気がついたことをやってみる」「結果がよければ採用」という方法を採り入れたそうです。
従業員が主体となって改善活動を実施できるようになりました。
施策によって生産性が39.5%もアップし、1時間以上作業時間をカットできる結果となりました。
生産性向上は、まずは効果や衛生管理を意識し優先順位を決めて着手するのがポイントです。
少人数の多忙な現場でも、できる範囲から業務改善に挑戦し成功した事例です。
水産食料品製造業(静岡県)
静岡県に拠点をおく水産食料品製造業社は、ダシなど天然調味料を主に製造しています。
生産現場では、紙ベースによる記録や情報伝達が行われており、かねてから課題となっていました。
紙ベースでは、ファイリングなど付帯業務の多さも問題となります。
加えて、手書きであるためデータをスピーディーに収集することが不可能であり、せっかくのデータも業務に活用されていない課題があったそうです。
そこで、生産性を低下させる要因を洗い出したところ、クラウド化で解決できるものが多いとわかりました。
実体に則したシステムを作成するために、現場からもプロジェクトメンバーを選出し意見を取り入れたといいます。
現場主体を第一に、通常業務中にシステム構築を実施すると同時に製造は滞らないように配慮。
従業員全員への説明や調整を入念に準備し、システム導入がスムーズに行えるよう、全社一丸となり乗り切りました。
クラウドシステムの導入により、生産性は105%アップ、対象工程時間は79.6%の削減に成功しました。
システムの構築においても、現場主体で進める方がスムーズな運用ができると示した、成功例です。
醤油製造業(千葉県)
千葉県にある醤油の製造販売を行う会社の事例です。
現場では以前からロット管理を行なっていましたが、製品が液体であるためロットのトレースが難しいという課題がありました。
ロット管理は手作業のため、人手と時間が必要でありヒューマンエラーのリスクがあったことも事実です。
そこで、各工程でのロット管理を個体ごとのバーコード管理に変更しました。
ロットごとではなく、各工程で開封状況をバーコードラベルに読み込み個体管理することで、個体ごとに原料の開封後賞味期限がわかるようにしました。
情報システム部門が現場を訪問し、現場作業員の話を聴きながらシステムを開発していったそうです。
これにより、ヒューマンエラーの削減、原料から出荷までのトレーサビリティの確保が可能になりました。
システムの確立によって、人員、時間の節約と食品の安全管理が併せて成功した事例の一つです。
パン・菓子製造業(岐阜県)
栗の栽培から加工菓子の開発、製造、販売を一貫して行っている会社の事例です。
栗の加工は一部機械化が進んでいるものの、手作業も多く生産性向上のためには従業員の熟練工化とともに作業改善が必要でした。
課題解決の取り組みとして、工程ごとにワークサンプリングなどを実施し、問題点を洗い出し、改善策を検討しました。
事業目標をコンサルタントと相談しながら設定し、施策に落とし込みました。
特に改善対象として挙がったのは「清掃時間」「残業」など時間に関する問題点、無駄な動きの要因となる「ラインの長さ」などです。
さらに、従業員の教育や設備機器の効率化といった課題も見えてきました。
IE(インダストリアルエンジニアリング)の手法を活用した実態調査と、効果的な施策により作業の効率化が実現できました。
活動当初、3年間で生産性10%向上という目標を掲げていましたが、年度内に達成しています。
設備や新技術を取り入れなくとも、徹底的な実態調査によって生産性が向上した事例です。
これからの製造業における生産性向上の展望
生産性向上の成功事例の中にヒントはありましたでしょうか。
製造業の未来を考えるなら、新しい視点を取り入れることも大切です。
これから生産性向上に取り組むなら、以下の2点は押さえておくべきでしょう。
- AIや業務効率化ツールなどの新たな技術の活用
- 働き方の見直しと多能工化
それぞれ詳しくお伝えします。
AIや業務効率化ツールなどの新たな技術の活用
AIや業務効率化ツールなどの新たな技術の活用は、今後の製造業における生産性向上のキーとなる重要な要素です。
AI(人工知能)の予測分析によって、製品の需要や製造機器の故障などを事前に予見し生産計画の最適化が可能になります。
さらに、AIは製品の品質管理、生産データの解析と言った分野でも貢献できます。
IoT技術を活用すれば、製造設備や機械がインターネットに接続でき、リアルタイムでデータのやり取りが可能です。
遠隔監視が可能になり、効率的な働き方ができるようになるでしょう。
デジタルツインは、製品や製造プロセスを仮想的に再現する技術です。
デジタルツインの導入によって製品の設計から生産、保守まで全体像を可視化し効率的な意思決定ができます。
デジタルツイン技術は、製造業に大きな変革をもたらす技術として期待を集めています。
これらの新技術は、製造業に生産性向上をもたらすでしょう。
また、製造業が直面する人手不足や技術の継承といった課題の解決にも寄与します。
製造業の未来を考えたとき「新たな技術の活用」は大変重要な要素と言えるでしょう。
デジタル化がもたらす効率化については、以下の記事で解説しています。
働き方の見直しと多能工化
働き方の見直しと多能工化は、製造業の生産性向上において欠かせない要素です。
働き方の見直しとして「フレキシブルワークの導入」「労働環境の改善」などが挙げられます。
従業員に柔軟な働き方を提供し、ワークライフバランスの向上や仕事へのモチベーションアップが期待できます。
働き方改革の推進が可能です。
また、リモートワークや柔軟な勤務時間の導入を検討するのはいかがでしょうか。
働き方の見直しとして、労働環境の改善や従業員の健康促進へ注力する必要があります。
これにより作業効率向上、従業員の満足度向上、職場環境の快適化などが実現できます。
多能工化とはマルチスキル化とも言われ、一人の従業員が複数のスキルを習得し異なる作業や職務に柔軟に対応できるようになることです。
複数のスキルをもつ従業員が増えれば、人員配置の柔軟性が高くなります。
もちろん何か問題が発生した場合でも複数の知識がある従業員がいれば、迅速に対応可能でしょう。
従業員に複数のスキルを習得してもらうには、継続的なトレーニングや研修の機会を提供、サポートが必要です。
これらの取り組みにより製造業は生産性向上が可能になります。
生産性向上によって企業には多くのメリットがもたらされますから、働き方の見直しと多能工化は積極的に取り組んでいただきたい要素です。
目まぐるしく変化する市場や環境に対応するためには、組織全体の柔軟性とともに各労働者の適応力を向上させることに取り組みましょう。
自社の生産性向上に向けて事例からの学びが大切
今回は、製造業における生産性向上の成功事例を5つ紹介しました。
自社の生産性向上のための、ヒントがちりばめられていたのではないでしょうか。
成功事例を積極的に学び、自社の業務に活用できる要素があれば柔軟に取り入れることが大切です。
生産性向上には無駄をなくし、効率化を図り、適切な設備やシステムを導入するなど複合的な施策が必要になります。
自社の課題を客観的に見つめ直し、必要な対策を一つずつ実行してください。
生産性向上に成功すれば、多くのメリットが得られます。
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