労働生産性は、企業の競争力と成長に直結する重要な要素です。
本記事では、製造業の労働生産性の現状を検証し、課題と解決策に焦点を当てます。
物的労働生産性と付加価値労働生産性の両面から日本の製造業を分析し、長らく改善されていない背景を考察しました。
さらに、労働生産性を向上するための具体的な取り組みや注意点も紹介します。
労働生産性とは?
労働生産性とは、労働者が一定の時間や労力でどれだけの価値のあるものを作り出すかを示す言葉です。
労働者一人当たりが生産できる「商品やサービスの量や価値」を測定する数値になります。
例えば、Aさんが1時間かかって1つの商品を作り、一方Bさんは1時間で3つの商品を作るとしたら、Bさんの方が労働生産性が高いといえます。
労働生産性を考える際は「物的労働生産性」と「付加価値労働生産」2つの方法で算出するのが一般的です。
2つの労働生産性について詳しく解説します。
物的労働生産性
物的労働生産性とは「製品の数や重量」を成果とする考え方です。
労働者が物を作るとき、どれだけ効率的かを示します。
労働生産性が高ければ、少ない時間や労力で多くの製品を作れることになります。
一人当たりの物的労働生産性を表す計算式は「生産量÷労働力(労働者×時間)」です。
物的労働生産性が高いと、企業の利益を増すだけではなく従業員のワークライフバランス向上などのメリットがあります。
付加価値労働生産性
付加価値労働生産性とは「製品の価値」を成果とする考え方です。
同じ時間や労力をかけたとき、商品やサービスにどれだけ付加価値を生み出せるかを示します。
付加価値は商品やサービスがどれだけ需要があるか、どれだけ有用かに関わります。
一時間当たりの付加価値労働生産性の算出方法は「付加価値額÷労働力(労働者×時間)」です。
高い付加価値生産性はより価値の高い商品やサービスを効率的に生み出すことを意味し、企業が発展する手助けとなります。
製造業における労働生産性の現状
日本の製造業における労働生産性は大きな落ち込みはないものの、長らく横ばい状態が続いています。
製造業の「労働生産性の推移」と「各国との比較」のデータを見ていきましょう。
労働生産性の推移
以下の表は、従業員一人当たりの労働生産性の推移を表しています。
出典:企業規模別に見た、従業員一人当たり付加価値額(労働生産性)の推移 中小企業庁第1-1-72図
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2022/chusho/b1_1_6.html
企業規模別に見ると中小企業では製造業、非製造業にかかわらずほぼ横ばいの状態が10年以上続いています。
大企業においても、近年は下降傾向が見て取れます。
2003年以降、デジタル技術やテクノロジーの目覚ましい進歩があったにもかかわらず労働生産性が向上していないのは残念な結果です。
日本は将来的に人口減少が見込まれています。
そのような中で経済をさらに成長させるためには、労働生産性を高めることが必要です。
各国との比較
日本の労働生産性は、諸外国と比較して低い水準にあります。
出典:OECD加盟国の労働生産性(2020年)中小企業庁第1-1-76図
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2022/chusho/b1_1_6.html
日本の労働生産性は、OECD加盟38カ国中28位。
OECD平均を下回る水準となっています。
労働生産性が上がらない3つの理由
日本で労働生産性が上がらない理由は、主に3つあります。
- 長時間労働の慢性化
- デジタル化への知識不足
- 中小企業へデジタル化が浸透していない
長時間労働の慢性化
労働生産性が上がらない理由の1つめは「長時間労働の慢性化」です。
日本では長時間働くことが「通常の働き方」として広く浸透してきました。
長時間労働が慢性化することになったのは、以下のような原因が考えられます。
- 労働文化
- 習慣
- 仕事が終わらなければ、長時間働いて終わらせるという考え方
- 働いた時間によって個人の能力が評価される企業風習
長時間労働の慢性化は労働生産性を下げる原因になるだけではなく、従業員には疲労蓄積、集中力低下などの悪影響を及ぼします。
長時間労働の慢性化を解決するには、「限られた時間で高い成果を追求する」考え方への転換が必要です。
デジタル化への知識不足
労働生産性が上らない原因の3つめは「デジタル化への知識不足」があります。
デジタル技術を理解していないと、仕事の効率化や情報の迅速な共有が難しくなります。
企業がデジタル技術を活用するための知識やスキルが不足している原因は以下の5つです。
- 古いシステムが運用され続けている
- デジタル技術を活用するためのノウハウ不足
- デジタル人材の不足
- デジタル技術の急速な進化についていくのが難しい
- デジタル技術に触れる機会が限られている
デジタル化への知識不足を解決するために、企業は教育や研修を実施しデジタル人材を育成することが求められます。
中小企業へデジタル化が浸透していない
労働生産性が上がらない理由の4つめは「中小企業へデジタル化が浸透していない」です。
デジタル化は、現代のビジネスに置いて不可欠なものです。
しかし、残念ながら中小企業へデジタル化が浸透していないのは、5つ理由があります。
- コンピューターやソフトウェアの不足
- 情報のデータベース化が進んでいない
- デジタルツールの利用が困難
- セキュリティへの不安感
- コストの問題
これらが複合的に重なり、中小企業へデジタル化が浸透しない原因になっています。
日本企業全体の99.7%を占める中小企業にデジタル化を進め、生産性を向上させることが必要です。
デジタル化の重要性を理解し、問題を一つずつクリアしていきましょう。
労働生産性が低いと起こりうる事態
労働生産性が低い大きなリスクとして「利益の減少」があります。
労働生産性が低いと、同じ時間内に生産できる商品やサービスの量は減少し、企業の利益が減少することになりかねません。
労働生産性が低い企業は、競争力の低下も招くでしょう。
商品の品質や付加価値の低下によって、市場シェアを失いビジネスの停滞をひき起こす可能性があります。
労働生産性が低いと仕事がなかなか終わらず、従業員の過重労働の原因になります。
過重労働が続けば、離職してしまう従業員も増えるでしょう。
人手不足から仕事が回らず、さらに労働生産性が低下する悪循環を生みます。
また、労働生産性が低いと新しいアイディアについて話し合ったり、製品開発に必要な時間が削られてしまう可能性もあるでしょう。
これにより企業の長期的な成長が止まってしまう恐れがあります。
労働生産性の向上は、企業の成功と成長に不可欠な要素です。
生産性を向上させるため新技術の導入、従業員のスキル向上、作業環境の改善などを積極的に推進しましょう。
労働生産性向上を考える際の注意点
労働生産性を向上させる取り組みは、さまざまな企業で進められています。
一方、経営者の方の中には「何から手を付けていいのか迷っている」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。
そこで労働生産性向上を考える際の注意点を先に2つお伝えします。
- ツールを有効活用して労働力を補う
- 情報共有を大切にする
注意するべきポイントを理解しておけば、労働生産性向上への取り組みもスムーズに展開できます。
ツールを有効活用して労働力を補う
ツールを有効活用して労働力を補うのは、生産性向上のための重要なポイントの一つです。
以下に具体的な取り組み方の例をあげます。
■ツールを選ぶ
生産性向上のためのツールには、さまざまな種類があります。
効率化したい業務を徹底的に洗い出し、適切なツールを選択してください。
■ツールの使用
ツールを導入するだけでなく、活用することが大切です。
ツールの機能を最大限活用するためには、従業員へのトレーニングや研修が欠かせません。
労働生産性向上のために、従業員への教育は継続的におこないましょう。
■ツールの評価と改善
導入後は、ツールの効果を評価し問題があれば改善しなければなりません。
期待通りの結果が得られない場合や、新たなニーズが発生した際はツールの見直しやアップグレードを検討してください。
ポイントを踏まえてツールを有効活用すれば、労働生産性を向上させることが可能です。
ただし、ツールはあくまでも補助的な存在です。
最終的にはツールを活用する人間のスキルに依存します。
ツールは労働力を補うものとして活用し、同時に従業員のスキルアップ、モチベーション管理、技術継承などの要素も考慮しましょう。
以下の記事では製造業で活用できる最新DXツールについて解説していますので、ぜひ参考にしてください。
情報共有を大切にする
労働生産性向上を考えたとき「情報共有」は大切な要素です。
仕事を担当する全員が同じ情報を共有するれば誤解や混乱を防ぎ、円滑なコミュニケーションを生みます。
一緒に働く仲間との信頼関係が深まり、労働環境のさらなる改善が期待できます。
従業員同士で協力したり、意見を出し合ったりすることで、新しい視点やアイディアが生れるのではないでしょうか。
チームや社内全体で情報が共有されていれば、従業員は自分の仕事の進捗を把握しやすくなり、結果として労働生産性の向上が見込めます。
情報共有は従業員が協力して仕事を進めるための重要な要素であり、労働生産性を上げるために必要不可欠です。
製造業の労働生産性を上げるには原因分析と構造改革が必要
製造業の労働生産は、長らく横ばい状態が続いています。
OECD加盟国の中で平均値以下の低い水準に留まっており、労働生産性を上げるのは製造業において喫緊の課題です。
製造業の経営者の方は、労働生産性が上がらない原因を徹底的に分析することから始めましょう。
分析の結果を冷静に見つめ、企業の更なる成長のためにぜひ構造改革を進めてください。
以下の記事では生産性を向上させる戦略について具体的に解説していますので、こちらも合わせて参考にしてください。
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