製造業では、人手不足が深刻な状態となっています。
実際に、製造業への就業者数は過去20年で158万人も減少しています。
一方、製造業を営んでいる経営者さまによっては「人手は不足しているものの稼働はできているため問題ない」と考えている方もいるでしょう。
しかし人手不足をそのままにしていると、大きな影響や損害になる可能性もあります。
そこで本記事では、製造業の人手不足の実態や理由、考えられる影響について解説します。
人手不足を解消する方法についても紹介していますので、現在人手不足で悩まれている方は参考にしてください。
製造業の人手不足の実態
製造業が人手不足に陥る実態は、以下の内容が関係しています。
製造業の人手不足の実態
- 従業員の高齢化
- 製造業への就業者数が減少
- 女性の製造業従事者が減少
ひとつずつ解説します。
従業員の高齢化
従業員の高齢化により、人材不足に陥っています。
特に製造業においては現状、労働力の中で高齢者の比率が増加しています。
2023年厚生労働省の「ものづくり白書」によると、65歳以上の製造業従業員の人数は以下の通りです。
従業員高齢化の推移
- 2002年は58万人
- 2022年は90万人
上記の通り32万人も高齢者が増加しており、今後も高齢者の割合は増えるでしょう。
また、現在働いている高齢の従業員が一気に退職してしまうと、さらに人材不足が激化する未来が待っています。
製造業への就業者数が減少
製造業の人材不足の実態として、製造業の就業者数減少が挙げられます。
現代社会では製造業以外の職種も増え、若者は新しい職種にチャレンジする割合が増えているのが現状です。
そのため必然的に、製造業への就業者数が減少しています。
推移は、以下の通りです。
全就業者数 | 製造業の就業者数 | |
2002年 | 6,330万人 | 1,202万人 |
2022年 | 6,723万人 | 1,044万人 |
上記の通り、全業種の統計を見ると就業者数が増えているのにも関わらず、製造業は減っています。
ITなどのネットビジネスが増えテクノロジー重視の職種を好む中、製造業では技術革新やデジタル化が追いついていないことが、若者の製造業離れにつながっています。
女性の製造業従事者が減少
製造業の人手不足の実態として、女性の製造業従事者が減少したのも挙げられます。
2023年度版ものづくり白書によると、女性の製造業従事者は2002年から2022年の20年間で、91万人も減少しています。
ところが、全職種の女性就業者を見ると、労働力率は増加しているのです。
女性は結婚や出産に伴い離職率が高いと言われていますが、現在は共働き世代も増えています。
では、なぜ製造業の女性従事者が少ないのでしょうか。
製造業の女性従事者が少ない背景は複合的な要因がありますが、そのひとつとして、働き方改革ができていない点が挙げられます。
育休明けに職場復帰した際、時短勤務などがおこないにくい環境だったり、急な早退などで生産性が下がったりするため、なかなか育休明けに仕事ができないためです。
そのほか、ジェンダーの課題も女性従事者が減る理由のひとつでしょう。
製造業において男性が優勢であるイメージや、力仕事はなかなかできないなどの職場の状況なども女性離れの要因となっています。
製造業が人手不足になる理由
製造業が人手不足になる理由は、以下6点です。
製造業が人手不足になる理由6つ
- 少子高齢化の影響
- 製造業に対するネガティブなイメージ
- リスクを伴う働き方
- 人材育成がうまくいっていない
- スキルアップが期待できない
- 将来への不安がある
順番に解説します。
少子高齢化の影響
製造業が人手不足になる理由のひとつとして、少子高齢化が挙げられます。
少子高齢化では、全人口に対して働けない世代の高齢者が増え、出生率の低下に伴い新しい若者の入社が増えないといった課題があります。
近い将来、高齢者はさらに年齢が上がるため結果、働けない人口が増加するのです。
もちろんこのまま少子高齢化が続き、何も対策をしなければ現状と同じ働き方は難しくなってきます。
このように少子高齢化に伴う、労働市場の縮小が人手不足を招いています。
製造業に対するネガティブイメージ
製造業に対するネガティブイメージをもった方が多いのも、人手不足になっている理由のひとつです。
ネガティブイメージとして製造業は「汚れる」「給料が低い」「勤務時間が長い」「単純作業でやりがいがなさそう」などを持たれがちなため、なりたい職業から除外されやすくなります。
仕事内容によっては夜勤があったり、もくもくと作業をして社員同士でワイワイする時間がなかったりするでしょう。
そのため他の産業と比較して、製造業に携わろうと考える割合が減っています。
リスクを伴う働き方
リスクを伴う働き方だと考え、製造業に携わろうとする人口が減っているのも要因のひとつです。
製造業によっては大きい商品を運んだり、夜勤も含めた2交代制などの場合もあったりするでしょう。
そのほか、繁忙期には休日出勤があったり、休日日数が少なかったりする企業も少なからずあります。
また勤務内容や勤務時間に見合う給与であれば問題ありませんが、なかなか昇給しにくかったり初任給が低かったりもするといった点も挙げられます。
そのため、ツラいリスクを背負うぐらいなら、他の職種で働こうと考え製造業に携わる方が減っているのです。
人材育成がうまくいっていない
人材育成がうまくいっていないのも、人手不足の要因のひとつです。
経済産業省のモノづくり人材の確保と育成によると、人材育成の問題点として、以下の項目が上位を占めています。
製造業の人材育成に関する問題点(上位4つ)
- 指導する人材が不足している(62%)
- 人材育成をおこなう時間がない(55%)
- 人材育成をしても辞めてしまう(37.2%)
- 鍛えがいのある人材が集まらない(27.7%)
上記の通り、人材育成をするために必要な時間や指導する人材がいないために、育成自体が活性化されていないのが実情です。
OJTなどを実施して、人材育成に努めている製造業もありますが、教育ができていない場合もあります。
製造業で必要な専門的なスキルや知識を身につけるためのトレーニングが不足しており、技能継承が難しい状況なのです。
とはいえ技術職なため、指導してくれないとスキルもアップできません。
「見て学んで」という昔ながらの人材育成だと、なかなかついていけない場合もあるでしょう。
そのため、入社したとしても指導ができず、結果満足のいく仕事ができないために、離職率が高くなるのです。
スキルアップが期待できない
スキルアップができないのも、人手不足になる理由のひとつです。
製造業は単純作業の工程も多いことから「スキルアップが期待できない」と考えている方も多いでしょう。
日々の業務が忙しく継続的な研修が設けられないため、なかなかスキルアップができず機会を逃すことも少なくありません。
また、伝統などの古い慣習の継続によりデジタル化の遅れも生じています。
特に業界全体でのイノベーションやデジタル化の進展に追いつけておらず、従業員が新たなスキルやテクノロジーに対応できる環境が整っていないことも影響しています。
将来への不安
製造業に携わることに対して将来的に不安だと感じる人材が多く、製造業に携わる人数が増えないことも、人手不足の理由に挙げられます。
給与面や労働条件なども含め、今後の見通しがたたないと感じているからです。
昇給の難しさや勤務時間の長さなどを含め「将来、製造業で定年まで働けるのか」と不安になります。
このように製造業の将来に対する不透明感が高まり、結果安定感のある他の産業を選びやすい傾向にあります。
また、日本を問わず海外でも競争が激化しています。
低コストで高品質な製品を提供できる他国との競争が、年々激しくなっているのです。
世界情勢を見据えて「定年まで働けるのか」と、雇用の継続性に不安を感じる方もいるでしょう。
製造業の人手不足がもたらす影響
人手不足をそのままにしていると、どのようなことが起きるのでしょうか。
製造業の人手不足がもたらす影響は、以下4点です。
製造業の人手不足がもたらす影響5つ
- 顧客満足度低下の恐れ
- 生産性の低下
- 労働環境の悪化
- 従業員のモチベーション低下
ひとつずつ解説します。
顧客満足度低下の恐れ
人手不足が継続すると、顧客満足度が低下する可能性が高まります。
なぜなら、人手が不足するのにも関わらず業務量は変わらないため、結果、個々の従業員がおこなう業務量が増えるからです。
業務量が増え、忙しければ忙しい分、ミスが生じる可能性も高まります。
また納期に間に合わなかったり、納品までの時間をあらかじめ長くしなければならなくなったりするでしょう。
その結果、顧客の満足度は下がり続け、顧客が離れていってしまう可能性がでてくるのです。
生産性の低下
人手が不足すると、生産性は低下します。
その分、製造プロセスが滞りやすくなり生産性が低下するためです。
生産性が低下すれば、その分製品の供給が予定よりも遅れる可能性があります。
さらに、生産性が下がればその分収益も減るでしょう。
生産性が下がり収益が下がったままにすれば、その分企業の損失は広がっていくのです。
労働環境の悪化
人手不足になれば、労働環境の悪化は免れません。
やらなければならない仕事の量が増えれば、その分一人ひとりに負担が多くのしかかるからです。
たとえば、今まで2人でやっていた業務を1人でおこなうとします。
業務時間ではなかなか終わらず、結果休日出勤をしたり時間外労働が増えたりするでしょう。
さらに体調面でも負担があるため、休みの日にリフレッシュしきれない可能性もでてきます。
体調を崩して休みたいと考えていても、ほかの従業員に遠慮してしまう方もいるかもしれません。
このように人手が足りず仕事量が増えると、労働環境は徐々に悪化していくでしょう。
また忙しければ、その分個々の従業員の心の余裕もなくなります。
納期と品質維持などにおけるプレッシャーなども含め、和やかな職場が重々しい職場に代わる可能性もあるのです。
従業員のモチベーション低下
人手不足により、従業員のモチベーションも下がります。
仕事量が増加しているのにも関わらず、給与面はなかなか変わらないからです。
人手不足が続くと従業員の担当業務が増加するため、労働時間が長くなる可能性が高まります。
仕事量が増えても給料がその分増えれば、頑張ろうと感じるかもしれません。
しかし、企業は今まで同様の製造しかしていないため、業績は変わりません。
もしくは人手不足による生産性の低下にともなって、業績が下がる可能性もあるでしょう。
その結果、企業としてもなかなか給与を増やすことができないため「今まで以上に働いたのにこの給与か」とモチベーションが下がるのです。
さらに、いつまで続くか分からない業務量に疲れや不安もでてきます。
状況が継続的に続けば、同業種の競合と比較して他社の給与や待遇が良ければ、モチベーションが下がった従業員が転職する可能性もあるでしょう。
人手不足を解消するための方法
人手不足を解消するための方法として、以下6点に取り組みましょう。
人手不足を解消するための6つの方法
- ネガティブイメージの払拭
- 副業の許可
- スキルアップ研修で人材を育てる
- 業務効率化を図る
- デジタル化で従業員の負担を減らす
- 女性や外国人の雇用を促進
順番に解説します。
ネガティブイメージの払拭
人手不足を解消するためには、ネガティブイメージの払拭が大切です。
たとえば、仕事内容や社員の様子などをブログやSNSでアップすれば、ネガティブなイメージが払拭されます。
危険なイメージを持っている方に向けてであれば、機械で作業をおこない安全性を保っていることを伝えるのも良いでしょう。
そのほか職業体験なども効果的です。
実際に、自分の目で見てもらうのがいちばんだからです。
職業体験で製造業のやりがいや、楽しさを伝えられれば、少しずつネガティブイメージは払拭されます。
上記のようにできるだけ、自社のポジティブな面を外へ発信し続けると良いでしょう。
副業の許可
副業を許可し、色々なことに目を向けられる柔軟な環境を整えることも大切です。
フレキシブルな働き方や副業の許可をすれば、従業員が他の仕事やプロジェクトにも参加でき満足感が得られやすいからです。
副業は、デメリットではありません。
新たな仕事を通じて従業員の多様な経験を生かし、新たなアイディアや知識を組織に取り入れられる可能性もあります。
また柔軟な働き方が良いと感じてくれて、働きたいと思う人材も増えてきます。
副業をすることで、生産性の低下を不安にする方もいるでしょう。
しかし副業は競合との差別化ができるのはもちろん、柔軟な働き方に対して従業員の満足度が上がるため、おすすめです。
スキルアップ研修で人材を育てる
スキルアップ研修で、人材を育てることも意識していきましょう。
研修を定期的におこなえば、仕事に対する満足度も上昇しスキルアップができるからです。
まずは、従業員に対して技術や業務スキルの向上を促進する研修プログラムを実施します。
たとえば、新しい技術や業界のトレンドに対応できるような研修の提供などもおすすめです。
新しい技術の提供は、従業員のキャリアパスを広げる機会を創出します。
また研修は指導する人材を増やすことも可能です。
指導できる人材が育てば、人材育成の向上にも役立つでしょう。
「見て学ぶ育成」では、全ての従業員の育成はなかなか難しいのが現状です。
そのため、スキルアップ研修は非常に大切です。
製造業の人材育成については、以下の記事でも詳しく解説しています。
業務の効率化を図る
人手不足による仕事量の増加や生産量の低下を防ぐためにも、業務の効率化は大切です。
業務の効率化を図れば、その分従業員の仕事量は減りモチベーションも維持できるからです。
作業を効率化する方法として、生産ラインの改善や自動化がおすすめです。
そのほか、段取り時間の短縮や工程を見直すのも良いでしょう。
普段どの作業にどの程度かかっているのか、しっかり把握をすることで業務を効率化し時間の短縮できる一歩を踏み出せます。
業務効率化ができれば、従業員人数も増やす必要がなくなったり、生産性の向上・時間的コストも削減も期待できたりします。
製造業の業務効率化の具体的な方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
デジタル化で従業員の負担を減らす
AIやクラウドシステムなどを活用し、業務負担を減らしましょう。
AIやクラウドシステムを活用すれば、人の手でなくてもできるような単純作業に関しては機械を活用できるからです。
たとえば以下のような場合にAIやクラウドが活用できます。
デジタル化が活用できる工程
- 類似図面検索
- 遠隔監視
- 市場予測
- トレンド分析
- 顧客や販売管理
- 組み立て作業
- ピッキング
上記のようにさまざまな業務でAIやクラウドシステムなどは活用できます。
結果作業の効率向上により従業員の仕事量を緩和するため、現状働いている従業員のモチベーションアップも期待できます。
さらに、生産量を増やせてスキルアップ研修の時間を増やすことも可能です。
以下の記事では製造業のデジタル化のメリットや導入方法について詳しく解説しています。
女性や外国人の雇用を促進
人手不足解消のためにも、特定の人材だけを選ぶのではなく女性や外国人の雇用を促進するのも大切です。
男性のみの雇用に着目していれば、入社できる幅を狭めてしまいなかなか雇用までたどり着けないからです。
女性の雇用を促進させるためには、女性の働きやすい環境を整えることが大切です。
たとえば育休制度を始め、急な休みがあっても柔軟に対応できる仕組みを作りましょう。
時短勤務など柔軟な働き方ができる企業であれば、復職したいと感じたり長く働きたいと感じたりしてくれます。
外国人の雇用に関しては、特定技能外国人を受け入れるのも良いでしょう。
技能実習生は、最長で5年間雇用契約を結べます。
日本人にとって、外国人との接点は良い刺激を与えてくれます。
モチベーションが下がりつつある職場に、真面目で労働意欲が高い外国人を1人でも入れるだけで、活気づくのです。
このように女性や外国人の雇用は、人材確保をするうえでのメリットと職場の雰囲気を変えてくれるメリットがあります。
人材の募集を幅広く設けて、人材確保をおこないましょう。
以下の記事でも製造業の人手不足について詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
生産性の向上が人手不足解消のヒント
製造業の人材不足は、製造業に対するイメージや少子高齢化などが原因となって促進されていません。
現状65歳以上の製造業従事者が増え、全体の製造業従事者はもちろん、女性従事者も減っているという実態があります。
製造業の人手不足を解消するには、まず生産性を向上させる工夫が必要です。
スキルアップ研修をして従業員全体のスキルを上げ、デジタル化などを含め業務効率化を図ることが大切です。
人手不足をしなければ、今いる従業員のモチベーションは下がり生産性が下がるため業績も悪化するでしょう。
さらに事態が進めば、人手不足により倒産する可能性もあります。
そのようなことが起きる前に、早めに対策を取るようにしましょう。
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